今回取材させていただいたのは、知的障害者の就労継続支援B型の施設である清光園。
先日、sukasuka-ippoでもご紹介した『元気パン coneru』『コネルハウス』で働くのはこの清光園の利用者さん。このほか、更に歴史の長い洗濯科もあります。
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前半はこの就労継続支援B型事業の見学、後半のインタビューでは、平等に働くことの難しさ、親なき後についてなど、幼少期の親が子どもの将来を描くためのヒントがいっぱい!
同日、一緒に取材させていただいた放課後等デイサービス『希望のひかり』
先日取材させていただいた『元気パンconeru』/『コネルハウス』の記事も併せてご覧ください!
▲案内をしてくださった清光園・事業部長の秋津さん(左)とsukasuka-ippo代表・五本木愛(右)
支援事業の始まりは印刷とキノコ栽培。今はパン事業が主軸
清光園の始まりは1978年、知的障害の授産施設として開設されました。
最初は印刷と栽培の2つの事業でスタート。
印刷業は、四版印刷と呼ばれるもので、役所のチラシや職員の名刺などを受注していましたが、プリンターの普及とともにどんどん仕事が減ったので、辞めちゃいました。
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今、パン工房がある場所はもともと栽培科の土地で、そこでキノコ栽培をしていたのですが、台風で屋根が剥がれてもお金がないから職員が直したりという『THE農家』という木造平屋だったので、東日本の大震災をきっかけに耐震に不安を感じたんです。
また、キノコにそこそこ値がついていた昔と違って、今はスーパーで100円とかで販売される時代。なかなか事業として継続するのは難しく、2009年に栽培も辞めることになりました。
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そして、2011年4月にできた横須賀共済病院の中で、パン屋さんをオープンしました。それが、うちのパン事業のスタートです。それに合わせて、同年11月から清光園を障害者自立支援法移行期限のギリギリで就労継続支援B型にしました。
なので今は、そのパン事業と1983年から続けている洗濯事業の二本立てでやっています。
【就労継続支援B型・パン工房科】就職を見据えた就労支援/そのきめ細かい工夫に迫る!
それまでのキノコ栽培ではその先の就労先になかなか結び付かないということもありましたが、結果的にパン事業は町のパン屋さんなどに実習に行く機会を作りながら、一般就労を目指しやすいという利点もありました。
工房は平成27年に新設したばかり!
清光園の敷地内に新館としてできたパン工房。中では皆さん各々の作業に集中していらっしゃいます!
▲工房内は広々としたスペースを確保。これでも時々、利用者さん同士が「ぶつかった!」なんて言うこともあるのだとか。
工房に入る前にしっかり衛生管理!手洗いは基本中の基本
やはり食品を扱う場所なので衛生管理は徹底!工房にはいるまでの流れもしっかり決まっています。
【ステップ.01】男女別のロッカーで着替えます。
就職先の職場によっては着替えが必要なところもあるので、将来の就職を見据えて、朝来たら仕事前に着替える流れを今のうちから習慣にしておきます。
【ステップ.02】靴を履き替えてから…
【ステップ.03】しっかり手洗い!
▲貼ってあるのはビオレの『手あらいのうた』。
花王の営業マンに来てもらい、手洗い講座をしてもらいました。クリームを塗り、手を洗ってブラックライトを照らしてみると、洗い残した場所が浮かび上がる!?そういうふうに目に見えない洗い残しを視覚的に確認することで、利用者さんにも手洗いの大切さが伝わります。
▲工房の外にはトイレと広い手洗い場
▲ちょっとわかりにくいですか?手が汚れていても腕で水を出せるように、蛇口は長い形状のものを採用。
【ステップ.04】コックコートを着て工房の中へ!
▲工房入口。人を愛する心と清潔な環境…そういうことです!
工房内には、利用者さんが作業しやすいよういろいろな工夫が
【point.01】熱いものがあるエリアの床は色で区別!
作業エリアにはフライヤーやオーブンなどやけどの危険があるエリアがあります。それを視覚的に常に意識できるように床の色をそこだけ茶色に変えてあります。
▲右側にあるのはオーブンで、その周りの床は茶色で区別されています。
▲フライヤー周辺もこのとおり床の色でしっかり熱いものがあるエリアだと示しています。
【point.02】電源コードは天井からぶら下げてつまずきを回避
▲床にあると見えにくくつまずきやすいため、こういう形に。
【point.03】色分けメガホンで後片づけの工程を分かりやすく!
この日は月曜日。こちらでは利用者さんが土日に使った展板をキレイにしています。
▲展板ラックの上の赤・青・黄色のメガホンにご注目!実はこのメガホンで工程を表しています。
【工程.01】赤いメガホンの下にはパンかすや砂糖などがついた展板。これを取って…
【工程.02】青いヘラを使って、展板にこびりついた油分や砂糖をこそげ落とします。
【工程.03】汚れを落とした展板は黄色のメガホンのラックに入れます。
【工程.04】最後にこの黄色いメガホンのラックから別チームが展板をとり、クロスで拭いて、キレイになった展板を青のメガホンの置かれたラックに片付けます。
いつもきれいに!!ばんじゅう(パンを入れる容器)をアルコール消毒して、敷き紙を敷いて、次に使えるよう備えます。
このようにしっかりした流れをつくることで、利用者さんも何をするべきなのか作業がつかみやすくなるそうです。
いろいろなことに少しずつ挑戦、できることが増えてきました!
いろんな工程があるパン作りのなかで、利用者さんができることを少しずつ増やしています。
▲ツヤ出しの卵を塗る作業。生地を傷つけないように、優しく丁寧に、がポイント。でもこれが難しいんです!
▲きれいに卵黄が塗られてツヤツヤに仕上がったあんぱん。ゴマも上手につけられるようになりました。
その他、工房の外ではお店と同じレジで練習!
▲お店と同じレジのシステムがあって、こちらでピッピッとレジ打ちの練習ができ、レシートも出てきます。本物を使うことで、より実際の場面に近い練習ができます。
▲お買い上げいただいたパンを入れるための袋を入れやすいように丸めておく作業も利用者さんのお仕事。
▲空いている時間には、いただいたボタンをキレイに洗ってリボン作りもします。これを食パンの袋につけると、とっても可愛くなるんです!
イートインスペースの整理整頓も利用者さんのお仕事!
▲朝の開店前にチラシを整えたりするような細かいところまで、利用者さんが丁寧にやってくれています。
▲2017.01に設置したばかりの自動販売機。オーブントースターもあり、買ったパンをこちらで美味しくいただけます
▲キッズスペースも新設!
▲かわいくて居心地の良い空間作りも大切にしています。壁のデコレーションには施設長・松田さんのセンスが光ります!
▲クッションまでパン!?sukasuka-ippo代表・五本木愛、完全にはしゃいじゃってます…
そしてこちらが店舗です。毎日、おいしいパンがずらり!
▲先ほど別室で練習したレジ打ちの成果が、実際の店舗で発揮されます!
パンの名前を覚えたり、個数をチェックしたり。そんな作業もやっています
▲時間ごとに個数をチェックします。パンの名前をきちんと覚えていないとできない、重要なお仕事。
【お店ではここに注目】店内に飾ってある絵は利用者さんの作品!
▼こちらの絵は、さきほど工房内で展板を拭いていた利用者さんが描いた作品。入賞してヨーロッパの美術館にも飾られたことのある作品です。
▼近づいて、よく見てみると何やら文字が書いてあります。
実はこの文字。その日にあったことを日記のように書き綴ったものなのだそうです。
▼フロントガラスの右上の点検ステッカーも忠実に再現。しかも、この絵は現場で消防車を前にスケッチしたのではなく、帰ってきてから記憶のみで描いたものなのだそうです。
▼こちらの作品は、武山養護の交流フェスティバルに行った後に描いたもの。
▼こちらは、お友だちと遊ぶ様子を描いた作品。
作者である利用者さんは、言葉はあまりありませんが、気持ちを紙いっぱいに表現するんです。ある時、カレンダーの大きな紙を試しに渡してみたんですが、やっぱり紙いっぱいに描いてくれました。
【就労継続支援B型・洗濯事業】幅広く請負/利用者さんが主体となって仕事ができる環境作り
さて、お次はもうひとつの洗濯科を見学。
こちらの洗濯作業棟は1983年に建てられました。いろいろなところから洗濯物を預かり、洗濯して畳んで配達するという請負業務を事業としています。
▲たくさん並んだ洗濯機。容量は最大50キロ、一般家庭用の洗濯機に比べると7倍近い量を一気に洗えます!値段でいうと、どれも車が買えるくらいの金額!?
顧客は病院から美容室まで!?請け負い事業で洗濯機はフル稼働!
▲請負先は様々で、清光会の運営する清光ホームなどはもちろんのこと、他団体の入所施設の洗濯物もお預かりします。
▲パン事業でも関わりのある共済病院のタオルやシーツのほか、横須賀市の消防局から救急車のタオルケットや毛布の洗濯も請け負っています。そのほか美容室からも!本当に幅広いですね。
▲畳まれて仕分けの済んだコンテナいっぱいの洗濯物。
▲土日は休業日となっているので、週明けの月曜日は特に大忙し!
ここでも利用者さんが仕事しやすいよう、工夫がたくさん
【point.01】洗う温度や時間が細かく決まっているものは、コース設定で間違えなし!
▲洗濯機は93℃まで温度を上げることができるので、病院で使うタオルは80℃で10分というように、それぞれのニーズに合わせてコース設定をしています。利用者さんもこのコース選択はばっちり操作できます!
【point.02】洗剤は安全第一、直接触れなくて済むように自動投入!
▲あらかじめセットしてあり、洗濯物や容量に合わせて自動投入されます。
【point.03】洗濯機や乾燥機の種類は、数字・色・アルファベットの3パターンで区別!それぞれがわかりやすい方法で認識
洗濯機には1・2・3という数字、A・B・Cというアルファベットが書かれた色の違うシールが貼られています。
例えば…
色で示すとわかりやすい人には「黄色からみどりへ移してください」
数字やアルファベットが得意な人には「1番出してください」「Aに入れてください」
など、その利用者さんにとってわかりやすい方法で作業の指示をしています。
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こうした工夫によって、利用者さんが 洗濯物を入れる・スイッチを押す・終わったら出す という一連の流れがスムーズにできるようになっています。
▲洗濯物出しにトライ。しっかり詰まって入ってるので、落とさないように出すのが結構むずかしい!
▲ひとつのドラムから出した洗濯物がこちら!1回の洗濯の工程で1トンもの水を使うそうです!
注意が必要な作業も今では利用者さんに任せられるように
枕カバーとシーツは、洗濯して脱水したあと、このローラーの機械でアイロンのように蒸気と熱でプレスして綺麗にしていきます。
指が挟まれる危険があるので、最初は職員が慎重に見届けますが、この利用者さんたちはもうベテラン!お任せしています。
▲大きいシーツは2人1組でローラーにかけていきます。
▲ローラーから畳みまで、2人の利用者さんの息はぴったり!!
仕上がった洗濯物を畳むのも大仕事!
▲こちらでは畳み隊が活躍中!
▲音楽を聞きながらノリノリで作業♪希望の音楽をめぐってたまにケンカになることも!
▲畳んだものは混ざらないよう、名前を確認しながらコンテナへ
▲仕上がりの見本を写真で分かりやすく!
▲納品書に何が何枚あるか記入し確認。基本は職員の仕事ですが、最近は利用者さんも一部お手伝いしてくれます。
主役は利用者さん!約20名の職員はサポート役に
秋津さん こちらはあくまでも就労支援の場所なので、作業はできるだけ利用者さんにやってもらいたいという思いがあります。
私たち職員がやると当然、早いんですが、それだと利用者さんの仕事をとっちゃうことになりますよね。ここでの作業の成果が利用者さんの工賃になるので、私たちはしっかりサポートしながら、利用者さんができることを増やしていきたい。
▲タオルに紐をかける作業も利用者さんのお仕事。慣れた手つきで素早くこなしていました!
配達に行くときも、職員はあくまでも運転手という立場でサポートします。
▲洗濯の配達車
▲コンテナを積んで配達へ。納品の時にコンテナごと入れ替えます。
【軽作業コスモス】高齢化の問題。年齢や体力に応じて軽作業へ緩やかにシフト
秋津さん ここまでご紹介してきた洗濯は、体力のいる作業です。今までひとりで洗濯物の入ったコンテナをワゴンに積み込めていたのに、それができなくなってきた方、疲れてしまって月の半分来ないという方…。
利用者さんの中には年齢を重ねて、同じペースで続けるには体がついていかない…という方もいらっしゃいます。そこで、座りながら自分のペースでやれるように作業の中身を工夫することで、皆さんが生き生きと仕事ができるように考えています。おかげで欠勤が少なくなりました。
▲こちらで軽作業にあたられている方は、もともと作業場や洗濯科にいた方々。高齢の方が多く、中には清光園の開所時からいらっしゃるという方も!?
▲チラシ折りの作業中
▲榊原郁恵やゴダイゴなど、年齢に応じた音楽をBGMに、みなさんお喋りしながら楽しく手を動かしていらっしゃいました。
【食堂】お昼はみんなで給食を食べます!
こちらが食堂。調理場で作った給食をいただきます。
▲この日のメニューはチキンカツでしたが、こちらは年齢的にも歯が弱い方のために適度な大きさにカット。必要に応じて食事の形態を変えています。
イベントも盛りだくさん!『ひかりっこ通信』でも賑やかな様子が伝わってきます
▲定期的に発行される『ひかりっこ通信』
去年のハロウィンのイベントでは仮装して、園内を回って「トリック・ア・トリート!」とお菓子をもらう企画をしました。
季節に合わせた行事を楽しんでいます。年に1度、旅行もするんですよ!
【インタビュー.01】福祉だから大目にみてもらうお付き合いは終わり!就労継続支援B型『清光園』、民間と並ぶための努力
五本木 作業というより、お仕事をされてるイメージが強いですよね。最初にここの元気パンに取材させてもらったときに、もともと先代が商人だったというお話を伺って、お仕事の取り方が上手なのかなと思ったりしたんですけど。
秋津さん 洗濯の請負も、ご縁でやらせてもらっています。だけどそれだけでは利用者さんの工賃を維持できないので、ネットで協力工場を募集して、美容室のタオルのお仕事はそこから始めました。額としては少ないんですが、そうした工賃で補てんしていかないと事業の維持ができないんです。
これまでの福祉のお付き合いって、「何かあったらごめんね」で終わってたんですけど、そうではなくて、民間は1枚違えば頭も下げなければいけない。利用者さんたちはハイクオリティではないので、職員はそこを気を付けたりしています。
あとは民間では祝日も関係なくこなすところが多いですよね。「祝日だからごめんなさい!」なんて言ったら、仕事はなくなっちゃう。だから職員が交代で配送だけは行ったりしています。
パンも同様に、利用者さんはみんな安い工賃で頑張ってくれていますが、お金を得るためには、「福祉だからとか言ってられない!」と、最近、すごく感じます。
福祉だから買ってもらえる時代ではないので、やっぱりここのパンも他のパンと遜色のないようなかたちで頑張らないといけないし、最初は土日祝日は休んでいたんですが、それだと民間企業のパン屋さんと同じ土俵で戦えませんよね。
五本木 お休みの日にご家族でいらっしゃる方もいらっしゃいますもんね。
秋津さん 今、利用者さんは、平日の9時に朝礼をして15時50分まで働く。これで長年やってきましたが、パン屋をやる体制にシフトしなければいけないかな、と思っています。パンを焼ける利用者さんが出てきたら、シフトできる方は工賃を上乗せするとか。今は土日は職員だけで頑張っているんですが、外販に行くときはグループホームの方に出勤してもらっています。そういう形で事業によってシフトしていかなきゃならないし、でも特性上、長年やってきた形を果たして変えられるのか…というようにまだまだ課題が多いです。
仕事のやりがいを感じられる救急車からの請負、「僕たち喜んでもらえてる!」
秋津さん 実は、仕事してる感を強く感じてもらえた出来事があって、それは利用者さんが転んで頭打って、救急車を呼んだときのこと。病院を探して待っている間に、救急隊の方が降りてきて洗濯科のほうまで「いつもありがとうございます」ってわざわざ言いに来てくれたんです。みんな「僕たちがやってるタオルだから!」ってそれはそれは喜んで、それを見たらそういう風にやりがいを感じられる仕事というのは大事だな、と思います。
利用者さんの仕事を奪わずにこちらの作業を維持することのむずかしさ/就職できる力がついたら外へ出してあげたい
秋津さん 洗濯も、我々職員がやるのではなく、利用者さんが共に稼いでいかないと意味がない。利用者さんがやっている作業は利用者さんにそのまま還元されるもので、その中からは我々の収入は出ていません。だからこそ、利用者さんと共にやっていかなければいけない。だけど我々でも簡単にはできない作業なので、利用者さんは何倍も時間がかかるんです。そこをどうしていこうか、というところも課題です。
洗濯の方で、2年前に病院の中に就職できた方がいるんですが、点数もできるし、職員補佐みたいに指示も出せたので、いなくなってしまうのはこの洗濯科としても辛かった。でも、働ける方なら外に出してあげた方が、ここにいるより収入ももらえる。
パン工房科でも、レジができる方を先日、民間のファーストフード店に就職に出しました。
「ここに居たい!」という方はもちろん残ってもらっても構いませんが、「社会に出たい!」とおっしゃる方はちゃんと社会に出さないといけない。だけど、清光園の仕事も維持していかなければいけない。そこが、やっぱり難しいところかな。
「かわいそう」という偏見が障害者の夢や進路の壁となる現実/あるダウン症の方の場合
秋津さん 障害者の偏見、というところでは、あるダウン症の方が「駐車場で誘導の仕事をやりたい!」って言ったんです。すると、それを見た人が「障害者を働かせて可哀想じゃないか!」って言うんですよね。本人がやりたい仕事なのに、県道に面して色んな人がその姿を見る。すると、「あんな所で働かせて可哀想!」という声になっちゃうんですよ。
五本木 本人からすると「可哀想」じゃないんですけどね。
秋津さん そうなんです。可哀想じゃないんだけれども、「可哀想じゃないか!」と思われてしまう。本人は、「車が入ったね」ってそれが嬉しいんだけど、「あんな所で駐車場係なんてさせて、何をやってるんだ!」「お前たち職員がやれよ!」って思う人が出てくる。でも実際問題としては、こういう福祉の商売はある程度、世間体を気にせざるを得ないところがあるので難しいです。
障害者が胸を張って働けるように、世の中の目を変える!!
秋津さん だからやっぱり施設長の松田とも話しているんですが、「ここ、清光園をきっかけに世の中の目を変えなきゃな!」と。その方たちが胸を張ってやりたいことができるように。
ここでは利用者さんが働く姿を、意識的にパンを買いに来る一般のお客さんに見てもらうようにしているので、最近は「今日、あの元気な男の子いないのー?」と声を掛けてくれる方もいます。
だから、パンを買いに来る目的でいろんな方がこの場所に足を運んでくれて「あ、ここは福祉施設だったんだ!」と感じてくれると、パン事業をやって良かったな、と思いますね。
実際に働いている姿をオープンに!挨拶・掃除・返事
秋津さん そして、実際に働いている姿を見てもらう中で、昔から清光園にある3つの指針「挨拶・掃除・返事」をずーっと続けてきてよかったと思っています。
時間があくと、利用者さんがホウキをもって敷地内を掃除して、その時にお客様に挨拶や返事もするんですが、そういうことが社会に出るためには大事ですよね。「ここ来ると気持ちよく挨拶してもらえるんで嬉しいよ」なんて言ってくれる方もいて、そういう形で少しずつ、少しずつみんなが居やすい場所になればなぁ、と思いますね。
就労B型-その評価表を特別に見せてもらいました!
秋津さん 利用者さんの工賃は、評価表をもとに点数をつけて決めています。出勤日数×いくらというように基本給を決めて、これに能力給を足していきます。これが実際の評価表です。
五本木 こういった形でお給料の計算を出していることを初めて知りました!
秋津さん AとかSとかの方は、たぶん、外でもやっていける方。この前就職した方もAでした。Sの方というのは、以前、就労されてた方だったりしますね。
増え続ける相談件数。横須賀市における就労B型の受け皿は?
pototon 現在、横須賀の中で就労B型を利用したいという希望に対して、受け皿となる施設の数や状況は実際のところはどうですか?
秋津さん 現状ではいっぱいです。うちも定員を超えてるので、辞めなきゃ空かない状況。あとは新しく作るか…ってなっちゃうので、受けられるところを探すとなると、どこまで空いてるか、難しいかな。施設の数って決まってますからね。
五本木 それこそ障害児の数が右肩上がりと言われる今の横須賀で、私たちは自分たちの子どもが大人になったらどうなっちゃうんだろう、というところにものすごく危機感を感じています。
将来に夢を描くために必要なのは幼少期からの情報収集
pototon でも同時に、実際にこうした支援の現場を取材をさせてもらうことで、私たち親も子どもたちの将来に夢を描くことができるようになりました。例えばパンを作るという就労支援の先が社会と繋がっているというのは心強いし、なにより利用者さんがいきいきと働いている姿が印象的。こちらのように福祉の枠組みから脱しようという試みからは、刺激をもらえます。
秋津さん 福祉だけれども、福祉の枠にはとらわれないようにしています。
去年、久里浜の筑波大付属特別支援学校の幼稚部や小学部の保護者の方向けに、学習会をしたんです。そこで、お子さんが大きくなってからの施設とか制度、障害福祉サービスについて話をさせてもらったんですが、やっぱり今のうちに情報を入れておかないと、いざって時に困るんですよ。高2・高3になって行き詰まっているお母さんは実際にいらっしゃいますし、そういう時に学校が十分な情報をくれるわけじゃないんですよね。
五本木 そう、私自身もすごく感じるのは、本当に自分から情報を求めていかないと、何も入ってこなくて、まったくの受け身だと本当に無知のまま子育てしなくてはならなくなるということ。私たちが情報発信を始めた理由というのもそこにあるんですが、自分の子どもが大人になった時のイメージを持てないと、今やらなきゃいけないことが見えない。だからそういうお話はすごく大事ですよね。
秋津さん だから呼んでくれた久里浜の幼稚部小学部は素晴らしいと思います。まだ小さい子のお母さんたちもいたので、いい機会になったんじゃないかと思います。これをきっかけに、うちに見学・体験に来てくれたお母さんたちがいて、「ダウン症の方でもこんなに仕事できるんだ」「うちの子、こんなに重たいものを1人で持ったりするんですね」なんて言ってました。
五本木 やっぱり自分の子と重ねちゃいますよね。お仕事されてる利用者さんを見て、うちの子あんなことできるのかなって思っちゃう。でもきっと積み重ねがあって、こういう風になるんだろうなって。
パン工房科と洗濯科、配属先は利用者さんが自分で選択!?
秋津さん そうそう、実はここでは、洗濯科かパン工房科かという配置は、それぞれの希望で利用者さん自身が選択して働いているんですよ。「偏るかな?」と思ってたら、不思議なものでうまい具合に半々にいきました。こちらからは何もテコ入れしてない。そうすると、「自分で選んだんだからお仕事頑張ろう!」って言えるんですよね。
で、モニタリングを半年に1回やらなきゃいけないんで、その時に改めて希望を聞くんですが、洗濯を選んだ方は「やっぱり洗濯でいい」って。
正直、こちらは皆さんの仕事なんでやらなくたっていいんですよ。こちらから「やれ!」とも言わないし、「帰りたい!」って言われたら「どーぞ!」って引き止めないです。でも、それだけみなさん、自分の仕事に誇りを持っています。
pototon 先ほどの話でもありましたけど、外から見て「そんなに働かせてかわいそう!」って言う人もいるけど、本人はやることがないほうが辛いっていう…
秋津さん そう、やることが何もないっていうのが一番苦痛ですよねきっと。
利用者さんはできないんじゃない、お母さんがやらせていないだけ
秋津さん その流れで言うと、お母さんたちはよく「この子はこれができない」って思ってるかもしれないけど、そうじゃなくてやらせないだけということも多いんです。
ある利用者さんで、「友だちが携帯を持ったから自分も持ちたい」って言ったら、お母さんが「この子は数字ができないから無理です」って。でもその方、ここでちゃんと洗濯の点数を数えてるんですよね。だから、「それはお母さんができないって決めてるだけだろう」って。
こんなこともありました。ある利用者さんが来たばかりの時に、「うちの子、缶ジュースは飲めないですから」とお母さんから伺っていたんですが、一緒に過ごしてみると、ただ単にフタが開けられないだけだったんですね。つまり、これは「飲めない」んじゃなくて、「開けさせてなかった」 っていうのが正しい。だから缶のフタを開けるコツを教えてあげたんです。そうしたら、家でも飲むようになったみたいでお母さんがびっくりしてましたね。
五本木 やっぱりありますね。どうしても親って、一緒に生活していると先に手が出てしまっていることのほうが多くて。やらせてみる、っていうのが頭にないんですよ。
秋津さん 食べ物もそう。親御さんの好き嫌いを見事に引き継いでますね。やっぱり出てこないじゃないですか食卓に。
でも、子どもってある程度の年齢までは、無限の可能性を秘めていると思うんです。それを止めちゃってるのは親だと思うんです。やらせるかやらせないか、失敗して学ぶじゃないけど、例えばお金を計算できなくても、PASMOが普及したことで買い物できたりということもあります。
確かにお金を使う時に、ぴったり出すのは難しいでしょうけど、大きいお金を出してお釣りをもらうことはできると思うんです。「買い物できない」って決めつけるんじゃなくて、方法はいくらでもあるよって。
【インタビュー.02】親亡き後の生活を支える『清光ホーム』『グループホーム』/先延ばしにせず準備してほしい
秋津さん 今回見学していただいた清光園ができた5年後(1995年)に、清光園の利用者さんの親亡き後の生活を支えるという思いで作られたのが『清光ホーム』です。
でも、入居の枠には限りがあって、みんなが利用できるかというとやはりなかなか空きがでないというのが現状。就労継続支援B型の『清光園』に通われている方の平均年齢が40歳を超えている今、その親御さんはというと80歳くらいになりますよね。
だから、僕らはよく親御さんに「今は元気でも、お母さん先に死んじゃうんだよ」って言うんですけど、なかなか親亡き後の生活の準備段階にシフトしてくれない。ショートステイで、少しでもお泊まりの練習をしてもらうなど呼びかけてはいるんですが…。
きっかけは、あるお母さんの突然死。そこからお母さんたちの意識が変化
秋津さん お母さんと2人暮らしをしていたある利用者さんがいらして、 お母さんが毎日、駅までその方の付き添いをしていたんです。でも、その日は朝からお母さんが「頭が痛い」って言っていて、「今日は一緒に行けないね」「じゃあね」って、そのやりとりの後に心筋梗塞だったかな…お母さんが亡くなってしまったんです。
そこで、その方は急きょ、『清光ホーム』に入ってもらうという対応をとりました。それにより、定員オーバーとなり、減算対象になってしまったんですが、その時は、そんなことにかまっていられない状況でした。
その後、グループホームに空きができたので、そこで生活できることになりましたが、そのことがあってから、私たちはもちろんのこと、他の親御さんも「うちもいつこうなるかわからないな」というふうに、意識が変わっていったんです。
いつ何があるかわからないから、少しずつ次の備えをして欲しい。今はいいけれども、次へ…というように準備を促すのも私たちの仕事だと思っています。
グループホームのコンセプトは、年金の中で生活できること!
秋津さん グループホームは、男子が3ヶ所、女子が1ヶ所の合計4ヶ所で、 年金の中で生活できるようにというコンセプトでやっています。ですから、うちの利用者さんでいえば、年金とここのお給料で生活している形になります。少ないですが貯金も若干できるかな。食事の担当者も「この人参のここの部分は次の味噌汁で使うから取っておいて」というように日常的に無駄が出ないようにアドバイスしたり、細かくやりくりをしてくれてるからできているんだと思います。
子どもを託す勇気。帰る場所さえあれば安心できる
五本木 将来的に、子どもは世の中に出て行かなきゃいけないじゃないですか。先程の話でもありましたけど、親が先に死んでしまって、親亡き後、その子がどこで、どういう生活をしていくのかということを考えると、1人ではないし、それこそマンツーマンでもないので、たくさんの人との関わることに慣れているかということが、ほんとに重要だと思うんですが。
秋津さん ギリギリまでグループホームを我慢して、自分のところでお子さんの面倒見るというのもひとつの考え方ですが、何かあった時に「今日からグループホームです」って急に預けたら、その方のお子さんはいきなり他人と一緒に住むことになる。私が勧めるのは、だったら「帰ってくる場所を残して、グループホームへ行くのを見届けてください」ということ。
それにはやっぱり『清水の舞台から飛び降りる』ぐらいの思いが必要だと思うんです。自分のところから手を離すのは、苦渋の決断だと思います。
昔は、それこそ福祉サービスがなかった時代ですから。お母さんたちは全部自分でやってきました。だから「お世話になるなんて申し訳ない…」という意識が強い世代でもあるんですけど、やっぱりお子さんを手放す勇気も大事だと思うんです。だって、急に他人と住むようになって、帰る場所もないっていったら、その方のはけ口はどこへいくのかなって。
だから今、40代の方が2名ぐらい、グループホームの利用を開始してくれて、お正月とか帰りたい時に、夕飯を食べにだけ自宅に帰ったりしています。やっぱり、普段はグループホームで暮らしていても、帰る場所を残してあげる=親が支えてあげられているわけじゃないですか、それで本人はやっぱり安心できるので。
五本木 それがいわゆる自立ですよね。いってみれば健常児だろうが、障害児だろうが、自立をさせていかないといけない。そこは親の役目だと私は思うので、ある程度の年齢になったら、そういうところで別に暮らして自立を促す、っていうことは絶対的に必要だろうなって。
秋津さん 我々は手を差し伸べるしかできないですからね。そのためには、こういう風にすればいいんじゃないですか、っていうアドバイスはできますけど、決断していただくのは当事者と、そのご家族の方なので。
でも、「今は元気だからといって、いつまでも一緒じゃないんだよ」、兄弟に「頼んだわよ」って言っても亡くなった後どうなるかはわからないですから。
社会福祉法人 清光会 の基本情報/これだけある!?清光会の展開する事業
住所/ 〒238-0313 横須賀市武1-2074-2
TEL/ 046-857-1367
設立/ 1978年3月
詳しくはHPで!(外部リンク)>>社会福祉法人 清光会
01.障害者支援施設『清光ホーム』
平成7年に開所。入居可能年齢を40歳以上とし、平均年齢は60歳超、一番高齢の方で80歳くらいの方が利用されています。
住所/ 〒238-0313 横須賀市武1-1977
定員/ 入所(施設入所支援)50名・通所20名
02.横須賀市内に4つのグループホーム
共同生活援助事業として横須賀市の西部地区に4つのケアホームがあります。
- 現在、男性ホームが3ヵ所、女性ホームが1ヵ所
- 定員はそれぞれ4名(全体では16名くらい)
- それぞれのグループホームから、日中活動の場へ通所したり、一般企業へ就労していらっしゃる方もいます。
03.単独型短期入所事業所(ショートステイ)『Peace Color(ピースカラー)』
家族の病気などにより一時的に保護が必要になった障害児者が短期間、入所できる施設。
住所/〒238-0313 横須賀市武1-2074-2
近日、取材をお願いする予定です!
04.就労継続支援B型-『清光園』パン工房科/洗濯科
障害者総合支援法によって定められた知的障害者の就労継続支援施設です。
定員/ 通所者50名
職員/ 10名によって職業指導・作動指導・生活指導をしています。
敷地面積/ 1574.90㎡
建物/ 1090.42㎡
05.放課後等児童デイサービス『希望のひかり』
同日、一緒に取材させていただきました!併せてご覧ください!
取材記事はこちら>>【取材File】放課後等児童デイサービス『希望のひかり』
06.店舗『元気パンconeru(コネル)』『コネルハウス』
こちらはちょっと前に取材させていただきました。美味しいパンがずらり!
取材記事はこちら>>【取材File】注文を受けてから揚げる至高の揚げパン!目印はお菓子の家『元気パン coneru(コネル)/コネルハウス』/横須賀
07.相談支援事業
H20年10月に神奈川県の指定を受けて障害者支援施設・清光ホームにて相談事業を開始。
障害をお持ちのご本人・ご家族からの相談や各種関係機関からの相談に対応。
相談にかかる費用は無料で、気軽に相談できます。
電話/ 046-858-1940
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五本木 グループホームと清光ホームで、どのくらいの人数の方がいらっしゃるんですか?
秋津さん グループホームが16人くらい、ホームが50人、通所が20人なので、清光会で生活を預かっている方は全体で70名くらいになります。ショートステイ『ピースカラー』と放課後デイの『希望のひかり』は申込制なので入れ替わり立ち替わりいらっしゃいますが、『清光ホーム』の通所と就労B型の『清光園』は利用者がほぼ週5で通っている方たちなので、固定されています。
五本木 放デイ、ショートステイ、清光ホーム、就労の場所…となると、利用者数がすごく多いですよね。横須賀では一番大きいんじゃないですか?
秋津さん 定員でいえば、海風会さんとか、三浦しらとり園さんの清和会さんのほうが多いです。年齢層でいうと、うちが横須賀の中では一番最初の民間の入所施設だったので、高齢の方が多い、80歳までいますから。
ここ、清光会は放課後デイ『希望のひかり』に通う小学校1年生から『清光ホーム』に入居する80歳の方までいるので、その年代同士が交わるというのは、考えてみると不思議ですよね。
年に1度、清光園みんなで旅行に行くんですけど、去年はディズニーランドだったんですが、若い方は楽しかったみたいなんですけど、高齢のメンバーは疲れたって。だけど親御さんたちはみんな一緒がいい、っておっしゃるんですよね。
sukasuka-ippo代表・五本木愛の視点
今回取材させていただいた清光園さんには、前回の『元気パン・coneru』『コネルハウス』の取材に続く第2弾となります。
前回はパン屋さんという側面をクローズアップして、中に入ってみたらそこが福祉施設だったとわかるような狙いがあるというお話を伺いましたが、今回、就労支援や放課後等デイサービスについてお話を聞く中で同様に感じたのは、長い歴史の積み重ねの中で常により良く、利用者と社会のニーズにあわせて柔軟に事業形態や事業の在り方を変化させてきた試行錯誤の積み重ねの結果がここに息づいているのだと感じました。
常に成長し続けるということは安易なことではありません。それには多くの熱意ある方が議論を重ね、チャレンジしていくことを基本として関わることが必要なのかと推察いたします。
取材をさせていただき、実際にお会いした利用者のみなさんは生き生きとお仕事をされ、デイサービスを利用をしているお子さんはのびのびと過ごされていました。
その姿、笑顔が何よりも清光会の理念を物語っていたように思います。
またひとつ、大きな学びをいただけたことを本当にありがたく思っています。
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2017.02
取材/ 五本木愛・misa・pototon
テープ起こし/ kayo・reiko・がらっぱち・Kyoko Aoyagi
写真・加工/ pototon・ゆっぴー
文・構成/ Yuka Kaneko・takeshima satoko
sukasuka-ippo
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