今回お邪魔してきたのは、横須賀市指定の放課後等デイサービス、『発達改善スクール ハッピーテラス』の衣笠教室。
”発達改善”という言葉はなかなか新鮮ですよね。発達に課題のあるお子さんを対象に、自立を目標にしたスキルトレーニングを行っているこちらの事業所。
学校終了後、17時までは自由時間。そのあと30分ずつのトレーニングを3回(途中休憩含む)そして、最後に自由時間があって最大で19時半までという利用時間にもその特色が表れていますが、放課後デイと塾を合体させた新しいスタイルというイメージでしょうか。
しかし、塾と違うのは、学校の勉強のお手伝いをするのではなく、お子さんのコミュニケーション力の向上を目指すことが目的だということ。
この日は横須賀にある2教室(衣笠・久里浜)を兼任されている井ノ口ますみ先生と今回の取材のためにさいたま市の与野教室から駆けつけてくれたハッピーテラス全体のプログラム開発の責任者である北川さんに詳しくお話を伺いました。
全国でフランチャイズ展開する教室。横須賀にできたのは最近のこと
ハッピーテラスは、関東を中心に全国に広がるフランチャイズの教室で、2016年10月現在、その数は70教室に上ります。
この横須賀には、2016.04に開所したばかりのこちらの衣笠教室とさらに新しい2016.06開所の久里浜教室の2校があります。
▲ビルの3階部分が衣笠教室
どんなお子さんが利用しているの?
ハッピーテラスは、学齢期(小・中・高)の、発達に課題のあるお子さんをお預かりする場所。
- 障害者手帳や療育手帳があってもなくても利用できますが、療育手帳を取得しているお子さんではBが比較的多く、A2のお子さんもいます。
- 利用しているお子さんが普段在籍しているのは、特別支援学校・支援級・普通級などさまざま。
- ダウン症・自閉症・広汎性発達障害など、障害の種類もさまざま。
- 話はできるけどみんなとうまく遊べないお子さん、言葉は出なくても言われていることはわかるお子さんなど、特性もそれぞれ違います。
具体的に現在、こちらの衣笠教室に通っているのは小学1~6年までの8名で、自閉症やダウン症、広汎性発達障害のお子さんがいます。
もうひとつの久里浜教室には、小学1年~高校2年生までの8名が通っています。
受け入れ人数は1日10名ですが、2016.10現在は一番利用が多い土曜日でも8名くらいなので、空きがあるとのことです。
送迎はあえて行っていないので、移動支援を利用してもらうか保護者の方に送迎をお願いしています。
ハッピーテラスってどんなところ?
一番の目的、それはコミュニケーション力の育成!
ハッピーテラスが考えるコミュニケーション力というのは、周りの人と楽しい関係をつくる力。その成長をサポートしていきたいというのが一番の思いだそうで、そのために4つのスキルを柱としています。
- 身体スキル…楽しく運動してリフレッシュ!姿勢を整えて集中して聞く、豊かな表現力など
- 学習スキル…自立した生活に必要な計算力や読み書き
- 生活スキル…挨拶・整理整頓・身だしなみ・電話やスケジュールの管理など
- 社会性スキル…周りの人との楽しい関係づくり、教え合い・学び合いから認め合いへ
「挨拶の手順だけを教えるのは簡単ですが、機械的に挨拶を繰り返すようなお子さんを育てたいわけではなく、挨拶が上手じゃなくてもいい、失敗してもその時「エヘッ」とかわいい笑顔を出せるとか、この子といると楽しいな、面白いなと思ってもらえるような楽しい関係を作りだす力のあるお子さんになって欲しいというのが最終的な願いです。
教室ではコミュニケーションの場を作って、その中で過ごして行くことで、そうした力を身に付けらえるようにサポートしています」と話すのは、ハッピーテラス全体のプログラム開発の責任者である北川さん。
17時までが自由時間、トレーニングは17時から!?最大19時半まで対応
タイムスケジュールを見て驚いたのは、時間の長さです。
学校終了後、17時までは自由時間。
そのあと30分ずつのトレーニングが3回あり(途中休憩も挟む)、その後また自由時間で最大19時半までの利用が可能となっています。
五本木 思ったんですけど、結構遅くまでやってますよね。
北川さん 時間は遅めのほうだと思います。
五本木 放課後デイだと、だいたい17時とか18時に帰ってくるというのが一般的なイメージ。これだと19時半までで、それから帰ってくると20時くらいになりますよね。
北川さん 時間帯としてはそうなりますが、トレーニングそのものが終わる時間は18時50分であとは自由時間になっています。ハッピーテラス全体で見ても19時半まで残っているお子さんはほとんどいません。保護者の方の都合などで、その時間まで預かってもらえないかという時には対応できるように最大時間を設けてありますが、19時にはほとんどの生徒がいなくなっている教室が多いと思います。
井ノ口さん 2時間目(18:10)まで受けて、そのまま移動支援で帰られるお子さんもいます。
北川さん 塾ではないので、トレーニング時間の3コマを全て受けてもらわないといけない、ということはありません。慣れるために1コマだけ受けて帰るとか、他の学習塾に行ってから来るから、2コマ目から参加します、というお子さんもいます。そこはご家庭の都合に合わせて来ていただくことが多いですね。
「トレーニング」でお子さんの成長をサポート。学校ではできないことを!
こちらハッピーテラスの一番の特徴がこの「トレーニング」。全国の教室で共通して平日は1日30分×3回のトレーニングを時間割として設けていますが、その活動例を見てみると…
最初の30分は主に身体を使った運動やレクリエーション
大きく動くだけではなく、手先を細かく動かす微細運動も活動に取り入れてトレーニングしています。
2時間目はスクール形式で、なるべく机に向かってプリントに取り組みます
具体的には読み書き、計算など、生活に関する知識を身につけていく時間でもあります。
3時間目はリラックスして活動を楽しむ時間
ゲームなどを取り入れることが多いです。
・・・
すべての時間を通して重視しているのは、社会的スキルです。
例えば、ただプリントに向かって知識をつけて帰ってもらうのではなく、プリントを使う活動を通して、たくさんコミュニケーションをとるなど。
身体を動かすときも、学習しているときも、生活の知識をつけるときも、コミュニケーションをとれるようにという目的は常に意識しています。
イメージとしては個別学習塾と学校の、ちょうど中間地点にあるような感覚です。お子さんのペースに合わせて無理せずできるような環境で、自分の力をきちんと発揮できるようにしていってもらい、それが学校での適応力の向上につながればいいなと思います。
個別対応ではなく全員参加が基本。誰もが主役になれる瞬間を!
基本的に大事にしているのは、なるべく個別対応にならないようにすること。
そのため、異年齢であっても、役割分担をすることで、ひとつのトレーニングをみんなでやるようにしています。
例えば、先日は「畑の中の野菜になったつもりで劇をする」という活動をやりました。
自分の好きな野菜の絵を描いて、棒をつけて、畑の中で野菜がどんなことを考えているかを演じてみる。
セリフを覚えるのは大変でも、畑の野菜になりきることはできますよね。
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また、お風呂のトレーニングをやったときは、あらかじめお風呂にばい菌シールを貼っておいてから、衛生クイズを出しました。
クイズに答えられたら1枚ずつ、ばい菌シールを剥がしていくと、最後にお風呂はきれいになるというわけです。
クイズに答えられないお子さんには、シールを剥がす役をお願いしたりして、みんなが参加できる工夫をします。
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そして、トレーニングの中で、参加するお子さんがどこかで主役になれる時間を必ずつくるようにしています。
だからハッピーテラスでは、トレーニングの組み立てというのを重視しています。年齢も障害の程度もバラバラなので、小学校1年生、高校3年生という年代で理解力をはかるのは難しい。小学校1年生ができることを、高校3年生の子がつまずくこともありますよね。
目の前のお子さんの特徴をきちんと見て、その子その子にフィットした役割を考えて、分担する。それぞれ異なる凸凹のある子どもたちの集団でも、トレーニングとして成り立つ活動は必ずあるはずだと思っています。それを考え、みんなを巻き込んで授業ができることをスタッフには求めています。
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また、ハッピーテラスでは、知的のレベルについてのライン引きはしていません。
コミュニケーションが難しくても、身体を動かしたり、見て真似したりというのは問題なくできるお子さんもいます。
絵を描くことなら得意というお子さんであれば、トレーニングの中に得意なこと・好きなことをひとつ混ぜてあげるなど、その日その日によって工夫の仕方を考えます。
では、実際に教室の中を見学してみましょう!
▲ハッピーテラスに入るとまずは先生方がお出迎え。先生方のお仕事スペースでトレーニングが練られます。
▲まずは手を洗います!
▲うがい用のコップもあります。
▲手を洗ったら下駄箱に靴を入れます。壁面には、先生方の写真付きの紹介がずらり。
▲いよいよ教室フロアに入室!
▲ぶつけても痛くないようにドアの取っ手にはカバー。
▲広い教室フロアがドーン!こちらで自由時間を過ごしたり、トレーニングをしたり。
▲窓際にはマットが敷いてあるおもちゃスペースがあって、自由に子どもたちが過ごします。
▲トレーニングが始まると中央のテーブルに着席。ホワイトボードを使った活動やプリントをしたり、土曜日は昼食をとる場所でもあります。
▲教室フロアの奥の壁側にもテーブルを配置。宿題などの個別の勉強にも対応できます。
▲災害時に備えて防災グッズも用意されています
ただなんとなくのプログラムはNG!きちんと目に見える積み上げを
学習支援ではなくトレーニングを行うためにテーマを設定
ハッピーテラスでやっているのはトレーニングであり、学習支援ではありません。
放課後等デイサービスは、管轄が厚労省ということもあって、学校とは違うことをやりましょう、という意図があります。
1年間のカリキュラムは全校共通で、身辺自立・読み書き・地域生活・聞く話すといういくつかの大きなテーマが決まっています。
それに対して、さらに具体的な小テーマを本部で決めています。例えば…
- 身辺自立→防災
- 読み書き→手紙
- 地域生活→インターネット
といったように。それを各教室で、テーマからは外れないようにしながら、内容はわりと自由に変換してもらっています。
ヴァインランドという心理検査を軸にしているので成長が一目瞭然!
テーマを設定する際に基本としているのは「ヴァインランド(vineland)」という心理検査です。これは社会性をはかる検査で、色々な項目があります。
例えば読み書きだったら、「50の言葉が出る」とか「100の言葉が出る」とかをお母さんにアンケートをします。
他にも「スケジュールがたてられる」「新聞が読める」など、ヴァインランドの検査項目と紐づけてプログラムを組んでいます。
つまり、ただなんとなく活動を繋げるのではなく、ヴァインランドを軸としているので検査を受ければ1年間の成長を数字として完全に表すことができますし、1年間のお子さんとの活動の記録を残していくことで、社会的な力の凸凹に対して、きちんと力を積み上げられたことが確認できます。
・・・
ただ、数字が全てというわけではなく、教室でプログラムを行う中で先生たちが注意してお子さんの様子をみていくことで見えることもたくさんあります。例えば…
ゴミの区別の問題で、絵を見ながら
- 「このシャツは捨てていいですか、ダメですか」→洗ってまた使えるから捨てちゃだめ
- 「このティッシュは捨てていいですか、ダメですか」→鼻紙でもういらないから捨てましょう
特性によっては、このような洋服とティッシュの違いが良く理解できないというお子さんもいます。
言葉でのコミュニケーションがまったく問題なくても、生活の中でこういった区別ができないと困りますよね。
・・・
ほかにも例えば、銭湯の番台みたいなものを設定として作り、先生たちがお風呂に入ったときの行動を演じて見せて、生徒たちが「間違いだ、おかしい」と思ったら発表してもらう面白いトレーニングがあります。
お風呂の知識(物の名前など)はわかるけれども、銭湯にお金を払わずに入っていくのがおかしいと気づくかどうか…とか。
・・・
日々のトレーニングを通して先生たちがひとりひとりを見て、凸凹になっているところを積み上げていくのが大事だと思うんです。
スタッフの研修はみっちり2週間!その中身は…
ひとりひとりの課題を見つけ、そこにコミットするプログラムを臨機応変に提供できるようにすることが求められるハッピーテラスでは、トレーニングに携わるスタッフは全員、初期認定研修を受けるのですが、その中身は、制度面や障害知識、安全管理等の座学以外は、自分でひたすらトレーニングを考えて作るというもの。
- 2週間のあいだに、自分オリジナルの、生徒が楽しめるプログラムが作れないと、不合格。(これにはビックリ!)
- 1割ちょい落ちます(シビア~!)
- 合格するまで受け続けるか、トレーニングを担当しない(その場合はサポートという役割にまわるんだそう)
- 基本的にはみんな合格できるようには指導していきます。
勉強会も定期的に開催!
本部主催で勉強会も頻繁に開いています。
- フランチャイズとして何か月か運営した後で、もう一度、障害知識の基礎理解講座というものを受けていただいて、知識の整理・おさらいをする研修があります。
- プログラムに関しても、年3回研修を行っています。
- トレーニングに関して勉強になるような勉強会も開催していますが、前回は、大学の先生を講師に招いて、いろいろなアプローチ法・・・ABA(応用行動分析学に基づく療育法)やTEACCH(自閉症児者とその家族のための生涯支援プログラム)、太田ステージ(自閉症児の発達段階に応じた治療教育)など、いろいろな方法があることを勉強しました。
- トレーニング以外の時間に関してもさまざまな課題があるので、虐待防止や性教育に関する研修(性的問題行動)などを開催。
- また、せっかく70教室あるので、各教室のケースを持ち寄って、意見交換する場も設けています。
近隣のデイや学校、事業所にもアプローチ!地域に根付いた支援を目指します
開所するときは、その地域の放課後等デイサービスをすべてリストアップして、訪問し、それぞれがどういったお子さんを対象にしているのか把握しておくようにしています。
いくつかのデイを利用されてるお子さんに関してやりとりをする可能性もありますし、もしくは重心のお子さんをどうしても受け入れられないときに紹介すべき先というのは、必ず知識として持っておかなければならないと思っています。
放課後デイだけではなく、児童相談所や相談支援事業所にもご挨拶に行って、一緒に地域でお子さんを支えていきましょう、とこちらから積極的にアプローチをかけて、関係性を築いていくことが大事だと思っています。
地域の中でお子さんを支えたい!それがフランチャイズである理由
そもそもどうして、ハッピーテラスは直営じゃなくフランチャイズなのかというと、
その地域のことは、その地域を支えたいと思っている企業の人にやってもらいたい、という代表の思いからなんです。
直営であれば指示系統がしっかりする反面、地域と関わりのない企業が全国にハッピーテラスを出すということになりますよね。
そうではなく、地域に貢献したいという思いのある企業さんにお願いすることに意義があると思っています。
ハッピーテラスさんを取材して、しっかりとした目的を持っていて、その子1人ひとりにあったプログラムを提供している放課後等デイサービスだなと思いました。
子どもたちのコミュニケーション力を伸ばすことを中心に、あそびを通して周りのお友だちと楽しい関係を作る。この「あそびの中から」という言葉はよく聞かれますが、遊びを通して社会性を身につけるというのは、子どもたちが意識的に頑張らなくても良いように普段のトレーニングから自然に学ぶことができる環境を整えるということなのかなと思いました。
例えば、お買い物の練習としておやつや土曜日利用時のお昼ごはんを買いに行ったり、個人の必要と能力に応じて、公共交通機関を利用する練習として、ハッピーテラスを利用する際にバス停までお迎えに来てくれるという取り組みもあるようで、社会生活で必要な能力を実際に生活の中で練習できるというのはとてもいいなと思いました。
それから、学校ほど大きくない集団、学校ほど厳しくない環境であることをうまく利用して、トレーニングでは子どもたち1人ひとりが主役になれる瞬間を作り、楽しく過ごせるよう考えられています。だから、個別対応はせずに、みんなと一緒に参加する、同じスペースにいるということを大切にしているのだというお話しも印象的でした。
・・・
取材日/ 2016.10.27
取材/ 五本木愛・ゆかねこ・misa
文・構成/ ゆかねこ
編集/ takeshima satoko
情報監修/ ハッピーテラス
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