今回ご紹介するのは、横浜市金沢区鳥浜にある『シンオー株式会社』。
「業務請負」と「流通加工」を2本柱とした一般企業ですが、ここではたくさんの障害をお持ちの方が活躍しています。
障害者支援施設からの施設外就労や養護学校からの実習受け入れのほか、仕事依頼などでお付き合いのある事業所は70団体以上。
同じ敷地内にある就労継続支援B型事業所『アイルビ―』と連携しながら、障害をもつ方たちの就労を支援しています。
今回の取材では、仕事場である倉庫内を見学、そして気になる事業立ち上げの経緯や、障害者雇用につながる仕組みについて『シンオー株式会社』代表の宮城泰雄社長にお話を伺いました。
どうぞ最後までご覧ください!
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まずは広い倉庫内を見学!
敷地内には約1000坪の倉庫スペース!
それがこちら…
▲どーん!かなり広い!
▲たくさんの資材が整然と積み上げられています。
中ではメンバーさんがお仕事中!
2018.05現在、『シンオー株式会社』には、8団体から障害をお持ちの方が施設外就労に来ています。
ここで働く障害をお持ちの方を「メンバーさん」と呼び、毎日40人のメンバーさんがグループに分かれてお仕事しています。
そのお仕事ぶりはというと…
team.01┃部品組み立て
▲こちらの班は何やら部品を組み立てていますね。
▲作っているのは建築部品。皆さん慣れた手つきで、次々と作業をこなしていきます。
▲金属の棒を黒い輪の中にはめ込むという単純な作業ですが…簡単そうに見えて実は、コツと力がいります。
五本木愛がトライしてみました
▲「えっ…全然入っていかない(汗)」
▲ここで登場するのはスプーン。このスプーンを使い、テコの原理で黒いゴム製の穴に金属の部品を押し込んでいきます。柄の曲がり具合から、いかに力を使うか想像できますね…
▲五本木も苦戦しながらなんとかひとつ完成!
▲手慣れた様子で次々と完成させていくメンバーさん。ケガをしないようにテーピングをした上から軍手をはめて作業するそうです。
▲できあがった部品はここへ。本数を確認しやすいよう工夫されています。
▲多い時にはなんと、1日1万本もできるのだとか!
team.02┃パッキング作業
続いてこちらは、園芸用土を量りパッキングするお仕事。
▲お互い声を掛けあいながら、スムーズに作業が進んでいます。
team.03┃シール貼り
▲こちらのチームは2グループに分かれてシール貼り作業。
▲海外輸出品には輸出先の言語の成分表示シールを貼ります。
▲シールを貼り終え箱に戻していく作業。チームで効率よく、助け合いながら進めています。
team.04 ┃木材加工
▲こちらのお2人は、マンションの床下に使われる木材加工を担当。機械を使う危険な作業も、今では安心して任せることができています。
取材メモ
- 事業所ごとにチームをつくり、障害をお持ちの方と支援スタッフの方が一緒になって仕事をすることで、連携がとりやすく効率よく作業ができるようにしています。
- チームごとにシャツの色を分けることで、広い倉庫内でもどのチームがどこで作業しているかが一目でわかります。
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TALK01┃『シンオー株式会社』宮城代表にお話を伺いました
▲『シンオー株式会社』宮城代表(写真中央)、sukasuka-ippo代表・五本木愛に加え、今回の取材のきっかけを作ってくださった横須賀市議会議員・小幡さん(写真右)を交えてトークタイムがスタート。
事業立ち上げのきっかけになった出会い、それは…
宮城代表 もともと勤めていた商事会社で営業開発をやっていた9年ほど前に、障害を持つ方に仕事をお願いする機会がありました。
その時出会った就労支援事業所の施設長さんがすごく前向きな方で、なんでもいいから彼らに仕事をくれとおっしゃったんです。
そうは言っても会社にとって初めての試みだったので、いきなり仕事を全部任せるというわけにはいかず少しずつお願いしていたんですが、彼らはしっかりと成果を戻してくれました。
それまで私は障害をもつ方との関わりがなかったので、彼らが普段何をしているか、ましてやどんな仕事ができるかなんてことは全く知らなかった。
だけどそうやってお仕事を依頼しているうちに、「あ、障害をお持ちの方って実はいろんな仕事ができるんだ」と気付いたんです。
仕事を探してきては障害を持つ方に繋げる、をコツコツと
宮城代表 ただ、その時の施設長さんのお話では、障害をお持ちの方たちが自分たちでは仕事を探すことができなかったり、仕事によっては合う合わないがあってなかなかうまくいかない、ということでした。
じゃあ私が探してきましょうと言って、自分の本業とは関係ない仕事も受注してきては彼らにお願いする、ということをやり始めました。
『シンオー』と『アイルビ―』
宮城代表 商事会社から事業譲渡を受け、『シンオー株式会社』としてスタートしたのが2016年4月。
そして「自分たちも就労支援の事業所を作りたい」という思いが強くなって、一昨年立ち上げたのが『就労継続支援B型事業所 アイルビ―』です。
『シンオー』は
”新しい秩序をつくっていきたい”とう思いから新ORDERでシンオー、
『アイルビー』は英語でそのまま
”I’ll be… (わたしは○○になりたい)” で、後に続く言葉は利用者さんそれぞれに考えてもらえればいいなと思っています。
▲メンバーさんが笑顔で働ける場所であってほしいという思いから、社名のロゴはにっこり笑顔をイメージしたデザインに。
『シンオー株式会社』(2018.05現在) の取り組みを整理
- 70団体もの事業所に外注で作業を依頼
- 『アイルビー』を含む8団体から施設外就労の受け入れ
- 養護学校の実習受け入れ
- 養護学校の卒業生を一般就労で計画採用
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障害をお持ちの方でも、仕事は必ずできる
宮城代表 これは私が常々申し上げていることですが、障害をお持ちの方って、この世に存在している仕事のうち、おそらく6~7割はできると思うんです。必ずできます。
障害をお持ちの方の中には事務仕事などができる方もいらっしゃいますが、一般就労が難しいと言われている方でも、工場・物流・倉庫など身体を動かす仕事であれば意外とできると思う。
ただ、それをやるためには、障害をお持ちの方を受け入れる企業側の問題というのも当然あるんですが、もうひとつ大事なのが、働きに行く側が福祉じゃないとわかって来ること。これが実はすごく大切なんですよね。
一般就労は福祉ではない
宮城代表 当たり前のことですが、一般就労って福祉じゃないんですよね。
障害をお持ちの方の保護者の方によくお話させていただくのが、「一般就労は一般就労です」ということ。
当然、その方の障害の特性を理解した上で、例えば手の力が入らない人に重いものを持たせるような無理なことはさせませんが、一般就労は福祉ではないので、例えばこういう人と一緒に仕事したくないとか、こういうことが苦手ですということを主張するのは違うと思っています。
社会に出れば、きつい言い方をする人、冷たい言い方をする人、いじわるな人…って当然いますよね。それって普通のことだと思うんです。
なので、ご本人にもご家族にも、一般社会のルールをよく理解して働かなくてはいけないということはお話しています。
障害をお持ちの方を受け入れる企業側は、その方のことをきちんと理解して、寄り添う。
同じように、働く側も、社会に参加する以上は社会人としてのルールを守る努力をする。
そしてお互いが歩み寄って出会ったところの最大公約数を活躍のフィールドにしていかなくてはいけないんだと思います。
養護学校の先生から相談の電話。その内容は…
宮城代表 この仕事を始めてから、養護学校の先生から相談の電話をいただくことがよくあります。
例えば、障害をお持ちのお子さんの進路を考える際に、就労継続支援B型の事業所に進むべきとする学校の見立てと、一般就労や就労移行支援に進ませたいという親御さんの意向がぶつかって平行線のまま話が進まず困っているといったケースがあります。
もうひとつ、同じように進路を考える際に、学校からは生活介護がよいのではと言われ、親御さんもその状況はよくわかる。でも、高校卒業後、何もトライせずに生活介護に入れてしまうことに抵抗を感じた保護者の方から、「無理かもしれない、続かないかもしれない。だけど、就労に挑戦させてほしい!」とご相談いただいたケースもありました。
学校としては進路は100%決めていかなくてはいけないという思いがあるので、お子さんにとって安全なものを…という考えで勧めるんですが、そこで親御さんと話が合わなくなって私の方に「話をしてもらえないか」と相談いただくケースが多いです。
だけど、そういった経緯で親御さんとお会いしてお話を聞くと、そこにはちゃんと親御さんの思いがあるんですよね。
仕事を覚えるだけでなく人間関係を築くための訓練を大事に
宮城代表 『シンオー株式会社』では、養護学校の卒業生を計画的一般就労で採用していて、今年度は横浜から3名、横須賀から2名の計5名を採用しています。
仕事自体はやっていれば必ずできるようになりますが、それよりも大事なことは、一般就労で採用された彼らが1年間働いて、次の年にまた新しい人が入ってきたとしたら、彼らは後輩ができるわけです。それまで自分のことだけやっていれば良かったのが、今度は後輩に教えたり、積極的にコミュニケーションをとったりということが大切になってくる。
ここで働くということは、ただ仕事を覚えるだけではなくて、人間関係を築いていくための訓練であると思っています。
なので、一般就労での採用は定期的に続けていくことが大切だと考えて、実践しています。
支援の最大の目標、それはひとりで生きていける自信をつけること
宮城代表 『シンオー株式会社』も『アイルビー』もそうですが、
障害をお持ちの方が50歳、60歳になって、親御さんがいなくなったその時に、ひとりで生きていく力があること。
例えばその時に、
「自分はここまで頑張ってきたんだから、この先もやっていける!」
という気持ちを持てることを支援の最大の目標にしています。
子から母に「こんなところで働いてるよ」という初めての報告
宮城代表 『シンオー』の本業は「業務請負」と「流通加工」ですが、障害をお持ちの方と出会ってからは本業以外のこともいろいろやってきました。
浦賀でやっている農園にお手伝いにいくという仕事があるんですが、そこで働いている女の子のお母さんからこんな電話をいただいたんです。
今まで、学校のことや外でのことを家で何も話さなかった子が、農園に働きにきた時に、その農園の写真をたくさん撮って帰って「こういうとこで働いていて、こういうことをして…」と親御さん見せたそうなんです。
”こうやって話すことなんて今まで一度もなかったのに、自分から「こんなところで働いてるんだよ」って教えてくれたことがすごく嬉しかった”とおっしゃっていました。
そうやって働く環境も「福祉っぽい場所」ではなくて、「普通」にすることで、障害をお持ちの方の気持ちも変わると思います。
そういう「普通」の環境をたくさんつくっていきたいですね。
誰もがおしゃれなお店で働きたい!それは福祉だって同じ
宮城代表 障害をお持ちの方のカフェとかって、どこかちょっと福祉っぽさがあると思うんです。
だけどそれって私はおかしいと感じていて、例えば東京の青山や六本木に、障害をお持ちの方のお店があってもいいし、制服が可愛かったり、海が見えるような景色のいい場所だったり、誰もが「こんなところで働きたい!」と憧れるような、おしゃれなお店があってもいいと思いますよね。
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TALK02┃これからの福祉の課題…
障害者雇用、どうやって広げる?
五本木 横須賀では工場・工業団地で一般就労を受け入れている会社があるという話はあまり聞きません。なので、色々な障害者団体の会議でも横須賀市のほうでもっと中小企業や工場での一般就労を促してほしいという要望もよく聞かれます。でも、受け入れる会社側からすると、どういう人をどう雇ってどう働いてもらったらよいかわからないんだろうなと思います。
まずは職員付きで!企業側のハードルを下げるのがカギ
宮城代表 就労継続支援B型であれば、施設外就労がいいでしょうね。
人手が欲しい企業に、ある団体が施設外就労に行くとします。それが今まで障害のある方を受け入れたことのない企業だとしたら、初めて障害のある方が来るとなればやはり構えてしまいますよね。ただ、そこにその団体の職員という管理者がついてくるとなれば、ハードルが低くなるわけです。
企業側は障害のある方を雇用する上で、困ったことやお願いしたいことがあれば、直接ではなく、その障害をお持ちの方の特性をよく知る管理者に伝えればスムーズで、それだけでも少しハードルは下がります。
そして、それが1ヶ月、3ヶ月、半年…と続いていくと、休憩時間や朝の挨拶など、企業側と障害のある方との間に必ず何らかの交流が生まれていきますよね。そうした交流が「一般就労させてもらえませんか」という次のステップにつながる。
最初のハードルを下げることによって、施設外就労をしやすくするという方法はあると思います。
五本木 私の実家も工業団地で会社をやっているんですが、障害のある方でもできるような工場内の仕事ってきっとあるのになと思います。だけどこれをどうやって就労に繋げるかを考えると、イメージがしにくいというか。
宮城代表 会社の経営者が、「そうだ!障害者を雇用しよう!」と思っても、現場レベルでそれを理解できるかという課題があります。現場にしてみたら、いきなり障害のある方が一緒に働くと言われたら戸惑うのは当たり前。でもそこに、その障害のある方を日頃からよく知っている支援者が一緒に行き、現場の受け入れのハードルを下げてあげることでうまくいくケースって意外とあると思うんです。
今『シンオー株式会社』に来てくれている8団体も、職員さんが利用者の方をまとめて連れてきてくれていたおかげで、私自身もそのお仕事の様子を余裕を持って見る時間がありました。
横須賀で1社でも2社でも、人手がない企業があるなら、だまされたと思って一度入れてみるといいと思います。(笑)
小幡市議 どこも人手不足の悩みを抱えていますよね、中小企業は特に。
宮城代表 そう、だから需要は必ずあるはずなんですよね。
発想の転換!思わぬマッチングがあることも。
宮城代表 ある有名な手作りフライパンを作っている会社に、聾(ろう)の方が来たらしいんです。
工場の中は大きなプレス機がガンガン動いていてかなりうるさいので、最初は職員みんな「こんな音の中でコミュニケーションも取れないし大丈夫だろうか」と心配していたそうなんですが、その方が手話を使うのを見て、ある時、周りの職員がはっと気づいいたのだそうです。
”こんなにうるさいんだから、手話の方が便利だ”って。
それから職員全員が手話を覚えて、工場の中では手話でコミュニケーションをとるようになったそうです。今は、距離が離れていても、職員同士が手話で意思疎通ができるようになり、便利になったのだとか。
五本木 面白いですね!そういうこともあるんですね。
一般就労への仕組みづくりの近道、それはきっと…
五本木 「一般就労どうですか?」というのを市のほうから企業に案内を出してもらったら良いのかなという話もありますが、現実的に考えると、ここに見学に来てお話を聞くほうが、確実で早いのかなと思いました。
宮城代表 ちょっと見せてくれということなら、僕は大歓迎です。興味を持ってもらえたら、試しに『アイルビー』から施設外就労で何人か送ろうかという話もできるでしょうし…。
五本木 とにかくやってみなきゃ始まらない、ってことですね!
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宮城代表、ありがとうございました!
『シンオー株式会社』の基本情報
〒236-0002
神奈川県横浜市金沢区鳥浜町6-3
TEL/045-772-1370
FAX/045-772-1378
sukasuka-ippo代表・五本木愛の視点
一言で『就労』といっても、
- 一般就労
(一般企業への就労、障害者雇用など) - 就労継続支援A型
(雇用契約を結び給与をもらいながら一般就労を目指す) - 就労継続支援B型
(通所し作業をしながら工賃をもらいA型や一般就労を目指す) - 就労移行支援
(就労を希望する方に一般就労に必要な知識や職場体験などを提供しサポートするサービス)
と選択肢は様々です。
ただ実際に、それぞれがどのような就労なのか?どのくらいの人がどこを選択するのか?
私自身、幼少期の障害児の保護者としてまだまだわからないことだらけです。
少し調べてみたところ、厚生労働省の障害者の就労支援対策の状況では、特別支援学校高等部卒業生の半分以上は福祉サービスの就労系への進路を選択していて、一般就労は25%ほどだそうです。
この数字だけみると、やっぱり少ないな…という印象を受けましたが、でも、一方でこの数値も年々増えていて、2003年から比べると2011年の時点で4.4倍になっているということで、一般就労の進路が開けてきているのかなと希望を感じます。
今回、取材させていただいた『シンオー株式会社』さんのように、就労支援B型と連携しながら施設外就労から一般就労へ繋げる仕組みが広がり、周知が広がることで、障害のある方の受け入れができる企業が増えてくれば良いなと思いました。
・・・
取材日/ 2018.05.01
取材メンバー/ 五本木愛・pototon・おーりー・ゆかねこ
撮影/ pototon
写真加工/ ゆっぴー
キャプション/ おーりー
文・構成/ Yuka Kaneko
編集/ takeshima satoko
sukasuka-ippo
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