障害児者やその家族などが作るグループや団体、作業所や地域活動支援センターなどの要望を取りまとめ、行政に届ける働きをしている横須賀市障害者施策検討連絡会(以下、施策検討連絡会)が、毎年1回開催している学習会に、今年もsukasuka-ippoが参加させてもらいました。
今回の学習会のテーマは、めまぐるしく変わる障害者支援の制度とその背景について。
立教大学コミュニティ福祉大学準教授・平野方紹氏を講師に招いたこの講演について、講演者である平野先生と主催の障害者施策検討連絡会の許可を得て、当日の講演内容と当日配布された資料をもとに講演録の形式にまとめました。
わたしたちのように幼少期・学齢期の障害児を育てる保護者にとっては、難しい内容も含まれていますが、障害児者とその家族の生活に直結する大切な制度のお話です。専門的な知識をお持ちの方は『ズームアップ解説』までじっくりご覧ください。
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主催・障害者施策検討連絡会会長 市川さんのあいさつより
情報保障|手話通訳と要約筆記について
聞こえに不自由な方は、聾(ろう)者と中途失聴者・難聴者に分けられ、情報を得るための手段がこの2者では大きく異なります。
- 聾(ろう)者は、日本語を習得する前の幼い時期に聞こえに不自由があり、日本語とは異なる言語である手話を自分の言語として使用しています。聾者の多くは難しい日本語や長い文章が苦手なため、手話で情報を取得しています。
- 一方、中途失聴者・難聴者は、日本語を習得した後で聞こえが不自由になったため、文字で情報を得る方が多く、手話を習得する人は少数です。
つまり、聞こえの不自由な方でも手話で情報を取得する方と文字で情報を取得する方がいらっしゃいます。
この学習会では、
- 手話通訳者の皆様は主に聾者に対し、本日の話し言葉を手話にして情報提供します。
- 要約筆記者の皆様は、主に中途失聴者・難聴者に向けて、本日の話し言葉を文字に変換して情報提供します。
要約筆記は聴覚に障害のある方の横について、手書きで伝える場合もありますが、本日の行事のように参加者が多く見込まれる場合には、スクリーンに文字を映して情報提供をします。
以上、横須賀市で策定した情報コミュニケーション条例により、障害のある人の理解を深めるための取り組みの一環としてお話させていただきました。皆様におかれましては、本日の学習会を通して、こうした情報保障の必要性についてご理解を深めていただければ幸いです。
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平成29年度 障害者施策検討連絡会 学習会
『障害のある人の地域生活を支える』~自治体における障害者支援のあり方~
講師/立教大学コミュニティ福祉学部教授 平野 方紹氏
まず最初に、わたくし自身についてお話すると、今回の依頼をくれた施策検討連絡会の高谷さん(茜洋舎 施設長)とは大学の同窓同期でして、今日はその高谷さんからの講演依頼ということで断るわけにはいかないということで今回お引き受けすることになりました。
学校を出てすぐに県立の障害者施設に指導員(現在の支援員のこと)として勤めたこともあり、障害者施設や現場に対しては思いがあります。その後は、県庁や行政の場が多く、ケースワーカーとして身体障害と知的障害の福祉士をやるなど、公務員として実務的なことをやってきましたが、本庁や厚生省を経由して、今は教育現場にいます。
今の現状は、市役所の方もそうだと思うんですが、制度がどんどん変わるので何がどうなっているのか見えない。そうするとついていくのがやっとで、先のことを見ることができない。特に障害関係の場合はそれが顕著です。
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この18年間で20以上の法律が変わったことによる混乱
2000年から2018年までの18年間に、単純に数えただけで12本の新しい法律ができました。しかも、既存の法律も10本ぐらいは大きく変わっています。
つまり、この18年間で20以上の法律が変わっているので、行政も現場もついていくのがやっと。新しい法律を覚えた頃には、もう次の法律ができているという状況です。
制度がこんな感じでどんどん変わっている現状に対し、特効薬ではないのですが、今、特に障害者の福祉制度がどういう状況にあるのかをお話ししていきたいと思います。
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2018(平成30)年度は、今後の障害福祉政策の方向性が打ち出されるキーとなる年
まず、2018(平成30)年度はどんな年かをまとめると、
- 平成28年に改正された障害者総合支援法・児童福祉法が全面施行される年
- 障害福祉サービス報酬が改定される年であり、さらに今年は診療報酬(2年に1度改定)と介護報酬(3年に1度改定)とのトリプル改定(6年に1度)という大きい変化の年
- 障害者計画(障害者基本計画が改定)と障害福祉計画が改訂され、これに新たに障害児福祉計画が策定される年
いずれも国連障害者権利条約が批准されて初めての障害者基本計画となるため、注目が集まります。
また、2018年度は『地域共生社会構想』が本格的に始まり、『わが事・丸ごと』を合言葉に福祉全般の動きが強まる年になります。
2018(平成30)年の障害福祉サービス報酬改定の議論に注目!
選挙前後で二転三転した動向と、±0%維持の要望がやっとという厳しい現状
私も厚生労働省の報酬改定の議論のメンバーに入っていましたが、本当に右往左往したこの報酬改定についての話は2017年8月にさかのぼります。
国は翌年度の概算要求を前年度の8月に提出します。実は、この2018年度の予算案を前年2017年8月末に財務省に提出する段階では、厚生労働省は31兆4,298億円という数字を出していました。
2018年度の国全体の概算要求が101兆円ということですから、それに対してかなり大きな数字ではあったわけですが、ここで注目しなければならないのは、前年度からの伸び率です。
かなりの圧縮型となっている2018年度の厚生労働省の予算
具体的に対前年度比でみてみると、厚生労働省の2017年度予算額30兆6,873億円に対して、2018年度の31兆4,298億円という概算要求はわずか2.4%しか増えていないんです。これは、かなりの圧縮型予算です。
ここで注目すべきは、政府全体が圧縮しているのではなく、厚生労働省のみが際立って圧縮予算となったというところにあります。
障害福祉は全て税金なのでプラスマイナス0でいきなさい
なので、当初の段階では報酬が伸びるということはあまり期待されていませんでした。
厚生労働省の中でも、特に障害保健福祉部の概算要求については例年同様の伸び率となっています。
この概算要求に透けて見えるのは財務省が進める「どこかを増やしたらどこかを削りなさい」という財政均衡(財政中立)という原則で、介護保険であれば保険料を上げるけれども、障害福祉は全て税金なのでプラスマイナス0でいきなさいということでした。
こうしたこともあり、この段階では報酬改定をしても総額に大きな変化はなく、保険料で調整しないため、財政原理が厳しく適用されると予想されていました。
しかし、2017年9月頃に入ると、ちょっと状況が変わりました。
報酬改定をめぐり2017年10月の衆院選の前後で首相官邸・財務省の動向が二転三転
2017年8月時点では強気の姿勢を見せていた首相官邸・財務省も、選挙前の9月には安倍政権がちょっと危なかったという状況を受けてか、介護報酬を2回連続で引き下げてきました。
その時、すでに介護人材不足は深刻化し、この間にも111件の事業者が倒産。撤退も相次いでいて、社会福祉法人の倒産も2件という事態だったので、さすがに3回連続での報酬引き下げは厳しいと判断し、その後、現行維持か微少な引き上げを検討するという方向に転換されました。
しかし、この時、財務省はこんなことを言いました。
“介護保険は頑張っている”
ただ、こうした財務省の「介護分野は努力をして利用抑制を図って予算を引き上げたのだから、障害分野も頑張れ」という主張には注意を払わなければいけません。
財政均衡を前提とした報酬改定の基本的な方向性
以上の流れのなかで、報酬改定の基本方針が3つ出てきました。
- 自立生活援助・定着支援など新しい要素が入った障害者総合支援法の改正
- 医療的ケア児をフォローするための具体的な策を盛り込もうとする児童福祉法の改正
- 地域移行が行き詰りを見せている障害者福祉施策について、今後の方向性を軌道修正しメリハリをつける
特に、3の行き詰る地域移行については、以下の問題が挙げられます。
行き詰る地域移行に対する課題|01
重度対策についてどう施策を推進するのか
いわゆる入所者を入所施設から地域に移行する割合について、これまで国は利用者の4%を目安に障害福祉計画を作ってきましたが、2018年の計画では2%に引き下げています。つまり、100人の利用者のうち4人を地域に移行するのではなく、2人でいいよとした。
地域に移行できる人たちはあらかた出し尽くして、地域移行が難しいケースが施設に残っているという状況を国も認識しているので、今回、その目標値を引き下げたのですが、そうした状況の中で
“重度の人をどうするのか”
というのが今の大きな問題になっています。
行き詰る地域移行に対する課題|02
増殖する就労継続支援A型と放課後等デイサービス
現在、就労継続支援A型と放課後等デイサービスの数は急激に伸びています。しかも、増えているのは福祉法人以外の参入です。
決して営利企業が悪いというのではありませんが、正直言って玉石混交という状況です。すごく良いところと課題があるところの差が大きくて、このあたりをどうするかが問題となってきます。そこで踏まえるべきは以下の4つのポイントです。
報酬改定のポイント|01
量から質への転換 | 質の低い経営主体には退場してもらう!
自立支援法から10年を経て、厚生労働省の基本的な体制はできたので、これからは量から質へ政策転換を図ることになります。
これまである程度目をつぶってきた質についてもメスが入り、これからは質の低い経営主体には退場してもらい、その分を質の高い経営主体に配分するという方針に転換します。
またここでは、社会的に非常に問題になった岡山県の就労継続支援A型の倒産をどう評価するのかということも考える必要があります。
この岡山県の倒産では厚生労働省と岡山県は不当に解雇されてしまった260人の利用者についてはハローワークなどで次の就労先を探すなどの保護をしましたが、事業者については1円も出していません。
その他、名古屋・埼玉・大阪で起きた同様の倒産についても、厚生労働省は利用者はもちろん保護するけれども、悪い事業者は消えてもらって結構というスタンスをとっています。
報酬改定のポイント|02
効率的・効果的な配分で国民に対し税負担の投資効果を明らかに
量から質への転換に加えてキーワードとなるのは、効率的・効果的であること。
これは、財源が税である以上、負担する国民の期待に応えられるように効率的・効果的な経営をしなさいということです。
言い換えると、優良な経営主体に傾倒的に配分することで、投資効果を明らかにする必要があるということになるのですが、これが後述する就労継続支援A型・就労移行への厳しい対応に繋がっています。
報酬改定のポイント|03
重度障害者・医療的ケア児対策を重視する必要
3つ目のポイントは、地域移行していくという政策路線に変わりはありませんが、先述の通り、重度障害者・医療的ケア児対策が非常に大きな問題となってきました。
医療の進歩によって、医療的ケアを必要としながら地域で暮らすことができる人が増えましたが、大きな問題となったのは熊本地震でした。それまで熊本大学などでやってきた医療的なケアが、地震によって対応できなくなってしまい、それが大変大きな問題になりました。
また、かつて重症心身障害児の施設がありましたが、2010年の法改正によって県から市に移った。それにより、重症心身障害児の施設も原則18歳までしか利用できないということになり、結果、重症心身障害者がだいぶ街中に出てくるようになったというのもあります。
医療的ケアについては、また違った観点が必要で、障害が軽くても医療的ケアが必要というケースを考えなければなりません。
なので、必ずしも重度対策とひとくくりにはできない。そして医療的ケアについての難しさは、福祉だけではなく、福祉と医療と両方で関わらなければいけないというところにもあり、それが課題になっています。
報酬改定のポイント|04
食事提供加算などの経過的措置を解消し、総合支援法として本格実施を求める
前回の法改正から10年が経過したことにより、財務省から経過措置をそろそろ撤廃せよと強く言われるようになってきました。
つまり、措置制度から支援費制度に変わり、そこからさらに自立支援法になり、その変化の中で設けられてきた経過措置について失くせという声が大きくなり、食事提供加算などがやり玉にあがり、それが新聞などでも取り上げられたわけです。
継続Bの授産工賃を上げる努力をしなさいというのも、実は経過措置だったので、全く削られると困るので、授産工賃毎のランクがあったわけですが、今後はこれも削られることになります。
次にメスが入るのは…結果的に言うと、就労移行と特に就労Aと放課後等デイサービスについてはかなり厳しい評価が入りましたが、よく見ると金額そのものは動いていない、むしろ微増なんです。
ところが、評価時間が変わって、給与をもらう就労時間に対して評価することになりました。そして、就労Bの授産工賃についても実績主義になったし、放課後等デイサービスについても本当に障害のある子を受け入れているのか、それに対して正しい訓練をしているのかというように、成績をみるようになった。
そして、今回全く手がついていないのは生活介護なんですね。障害報酬の2/3弱が生活介護が占めていますが本体については全く手がついていないんです。逆に言うと、生活介護については評価のしようがなかった。ということは、次の改定ではここにメスが入るということです。どういう評価をするかというところは注目しなければなりません。
介護報酬改定|政局の影響
2017年10月22日、与党圧勝により状況は一転
それまで比較的良い流れで来ていたのですが、衆議院選挙における与党大勝により、まさに手のひらを返すように、選挙の翌23日に財務省が何を言ったかというと、
“今回は介護保険もやっぱり引き下げだよね”って言ったんです。
選挙が危ないという時は、「今回は引き下げはしないでしょう」と言ったところからの急展開。
ここから雲行きが一気に変わりました。
首相官邸も財務省も、それまでの春風のような優しい雰囲気から一気に変わり、
- 社会保障は削れ
- 介護報酬も引き下げろ
と言ってくる。肝心の厚生省も抵抗しない。
こうした状況の中で2017年11月に障害者関係団体が首相官邸に申し入れをするのですが、問題はその内容で、この時の申し入れは「介護報酬を上げてくれ!」ではなく、「引き下げないでくれ」という申し入れでした。それくらい厳しい状況でした。
ところが2017年12月、状況はまたも一変
最終的に財務省から出たラインは
診療報酬は+0.3%
介護報酬は+1%
というものでした。
その他、安倍政権の得点稼ぎというのもあり、当時問題になっていた介護離職や広域待機ゼロなど現実味がないじゃないかと突かれまして、それでも最終的に
- 診療報酬が全体で+0.55%
- 介護報酬が+0.54%
- 障害報酬が+0.47%
というところに落ち着きました。医療が介護より上だという序列についても、従来通りでした。
数字の落とし穴に注意!実は、この数字には大変な落とし穴があるんです。
平成24年度の改正時は、
診療報酬が1.38%UP
介護報酬は1.2%UP
障害報酬は2.0%UPで一番高かった。
次の26年改正の時は、消費税を上げる関係で
診療報酬が1.36%UP
介護報酬は0.63%UP
障害報酬は介護をちょっと上回って0.69%UP
前回の28年改正の時は
診療報酬は0.49%
介護報酬はマイナス2.27%
障害報酬はプラスマイナス0
そして今回の改定では
診療報酬0.55%
介護報酬0.54%
障害報酬0.47%
ここから何がわかるかというと、これまで伸び率がいちばん高かった障害が医療に抜かれ、介護に抜かれたんです。段々と序列が下がるという現象になってきているんです。ここでよく注意しなければならないのは、結局、医療や介護は保険だけど、障害は税金でやっている。だから、今後障害の財源を増やしていきたいというのであれば、もう税金方式では伸びないと思え、保険方式に移せという財務省のある種の脅しと言ってもいいと思います。
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一方で、厚生労働省は足踏み状態でした。まだ前回の自立支援法の時の問題が残っていますので、全部終わるまでは介護保険との統合は先送りされるのではないかとみています。
経営実態調査|放課後等デイサービス|グループホーム
今回初めて経営実態調査の結果が報酬に反映された
今年の4月から障害者の報酬が0.47%上がっていますが、実際にはもっと上がっています。報酬本体を見ると1%ぐらい上がっているんです。
これまでは全体の伸び率を見るために使われていた経営実態調査が、今回のように調査結果に基づいて各サービスの単価を変えているのは初めてのことです。
つまり、今回の経営実態調査では、初めてその結果が報酬の設定に反映されたということが大きな特徴です。今までは全体の額を決めるために使われていましたが、これによって経営の伸び率が低いところを厚めにして、高いところを低くした。おそらく今後はこのように経営実態調査が単価設定に反映されていくようになると思います。
放課後等デイサービスの半数以上が手帳を持っていないというデータ
それから、放課後等デイサービスに関していうと、これまでは誰でも利用できて、放課後等デイサービス利用者の半分以上は手帳を持っていないというデータがあがっています。
他のサービスについてはほとんどが手帳所有者を対象にしていますが、放課後等デイサービスについてはもともと発達障害を対象としているので手帳所有者に当てはまらないことが背景にあるんですが、今回の報酬改訂では、手帳を持っている子を受け入れると現状より上がり、医療的ケアを必要とする子どもを受け入れた場合には額が大きく上がることを指針を盛り込みました。だから、無条件に受け入れていると額が下がる仕組み、つまり成果主義になりました。
グループホームのポイントは重度者対応
グループホームに関しては、重度者対応がポイントになり、今は5対1(利用者5人に対して支援者1名)ですが、これを3対1にして20人ぐらいのユニット型にしてそういう地域生活拠点型のグループホームを作っていくという方針にして、いわゆる重度者を増やすという形にしました。
自立支援法|障害者総合支援法|地域移行|利用者本位
そもそも法改正はいつから議論されていたのか
実は法改正を受けて今回の報酬改正があるのですが、この法改正がやっかいでして、そもそもいつから議論があったかというと、2002年に自立支援法が障害者総合支援法に変わった時にセットされたんです。
平成24年に障害者総合支援法が成立するんですが、この時に付則2検討第3条にこの法律ができてから3年間の間に主に以下の7項目について議論するように記されています。
- 常時介護を必要とする重度障害者の支援をどうするか
- 障害者等の移動の支援をどうするか
- 障害者の就労の支援をどうするか
- 障害支援区分の見直しについて
- 成年後見制度の利用促進をどうするか
- 手話通訳をおこなう者の派遣とその他の聴覚・言語機能・音声機能等の障害に対する支援をどうするか
- 精神障害者と高齢の障害者に対する支援をどうするか
こうした7つのことを議論して、法律を変えましょうということでした。
そして3年経って今回の法改正につながるのですが、この7つのポイントは自立支援法に関わる問題なんです。
自立支援法で行き詰まった地域移行と就労
平成16年に成立して、18年から施行された自立支援法は、地域移行もなかなか進まず、就労についてもほとんどのところが目標達成できないというように行き詰まってしまった。
重度障害者が地域で生活できる基盤や社会資源が乏しかったという状況で、重度の方々が地域に出られない、精神障害の方々も病院から出たのは良いけれど、結局引きこもってしまって、症状が悪化して病院に戻ってしまったりというケースもあり、こうしたケースは重度障害者の方ほど深刻で、理想と現実のギャップが大きくなってきてしまったということが言えます。
自立支援法は利用者本位の制度であったか
もうひとつの大きい問題は、利用者本位の制度として掲げた自立支援法や支援費制度が、本当にそうなっているかという点です。
意思決定支援や冒頭に会長さんからお話のあった手話通訳をはじめとするコミュニケーション支援が出てきたのは、この利用者本位を進めるための前提となるからです。
総合支援法の法改正のポイントは非常にシンプル
ところが実際の総合支援法がどうなってきたかというと、法改正のところは非常にシンプルなんです。
そもそも総合支援法も正式名称はとても長くて、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律案」と言います。
概要をまとめると、障害者の望む地域生活の支援として
- 自立生活援助
- 就労定着支援
- 重度訪問介護を入院時も一定の支援を受けられるようにする
- 65歳以上の利用者負担軽減の仕組み
など、かなりシンプルなんですが、ただ、ここに意思決定の文字はありません。
障害者の制度と政権の関係が重要なポイント
障害福祉をみるときの重要なポイントがここにあるんですが、障害者の制度を見るときに政権との関係がとても大きいんです。
- 2004年 障害者自立支援法ができた時は小泉政権。つまり自公政権がこれを作りました。
- 2009年 鳩山内閣に政権交代。民主党(連立)政権では自立支援法廃止を掲げていたので、自立支援法に代わるものを作ろうとしてつなぎ法(2010年成立)や障害者総合支援法(2012年・野田政権(民主党)時に成立)ができたわけです。
自立支援法を廃止するために作ったため、障害者総合支援法には様々な抜本的な改革が盛り込まれています。例えば、移動の問題が2番目という高いポジションにきているのも、障害のある人の社会参加の必要性を重視したからです。
これら移動の問題は、今回の法改正でガラッと削られてしまいましたが、今回の改正は安倍内閣(自公政権)によるもので、つまりこれは自立支援法を作った小泉内閣と同じ流れなんです。
だから、今回の法改正は総合支援法を全面的に変えるのではなく、事実上は自立支援法の一部改正と考えるとわかりやすいかと思います。そうはいっても、65歳問題や医療的ケア児の問題など、新しい課題については盛り込まれています。
地域共生社会構想|我が事・丸ごと|
2018年度に本格始動する『地域共生社会構想』
『我が事・丸ごと』の示すもの
これまで、縦割りの行政によって進められることの多かった支援について、地域住民や地域の多様な主体が個人や世帯の抱える複合的な課題に『我が事』として関わり、『丸ごと』支援できるように転換する動きが本格的になってきました。
つまり、公的な福祉だけに頼るのではなく、地域で暮らす人々と共に支え合う社会にしていこうというのが、この『地域共生社会構想』です。
世帯から地域へ。厚生労働省が大きく変えた方針
これまではこうした制度の単位は世帯でした。ところが、この『地域共生社会』の構想では「世帯」に言及しているのは1ヵ所のみ。ここから、「もう世帯には頼れない」という厚生労働省の方針が透けてみえます。
単身者世帯の増加と『我が事』
しかし、既に30%が単身世帯である日本で、今後、さらに単身者が増えていけば、この制度の在り方は使えなくなります。そうなると、代わりにやってくれる誰か、つまり地域の中の『我が事』が必要になります。
ダブルケアと『丸ごと』
『丸ごと』で必要なのは、今、話題になっているダブルケアです。結婚を例にとると、今、男性の平均結婚年齢は31歳。女性も30歳で、今後、この数字はもう少し伸びてくると予想されます。
これ自体には問題はないのですが、どういう影響が出てくるかを考える必要があります。例えば、平均結婚年齢が33歳まで進み、親も35歳で子どもを産んだと単純に考えると、自分が35歳で子どもを持った場合、親の年齢は70歳、つまり子育てと介護がセットでくる社会になります。
『我が事・丸ごと』という発想の必要性と懸念
つまり、少子高齢化の影響に、単独世帯の増加とダブルケアの問題が加わると、世帯ではなく地域でそれらの課題に取り組む『我が事・丸ごと』という発想が必要になるのです。
ここまでは良いのですが、私自身が持っているのは、本来、行政がやるべきことを地域に押し付け、丸投げしているのではという懸念です。
介護も障害も含む『我が事・丸ごと』、でも一番に優先すべきはなにか
高齢者の単身率の半分は、配偶者のどちらかがなくなった結果です。そして、単身率が一番高いのは、実は障害です。障害者の場合は、生涯独身の方が多く、単身率の影響を考えると障害者が一番深刻です。
そして、『我が事』については、誰もが子どもで、誰もが高齢者になるけれども、障害者はなる人とならない人がいる。つまり、我が事として一番イメージしにくいのも障害です。
それから、『丸ごと』についても、子どもは子ども、高齢者は高齢者とそれぞれ課題が線引きされているのに対し、障害は障害を持っている子ども、障害を持っている高齢者というように、両方にまたがっている。ライフサイクルでいえば、幼少期から青年期、中年期、壮年期を経て高齢期と制度も変わっていきます。
つまり、本当の『丸ごと』が必要なのは障害者なのだと思います。
障害者が安心して暮らせるのが本当の地域共生社会
だから、『我が事・丸ごと』を本気で考えるなら、障害者の問題を据えるべきなんです。
障害のことを我が事として考えられる地域ができたら、それこそ本当の共生社会なんだと思います。障害者が生まれてから高齢になるまで、地域で安心して切れ目なく生活できる地域、それこそが本当の地域共生社会だし、こういう社会であれば高齢者も安心できると思うんですが、どうしてか障害者の問題がスポンと抜けているんです。
障害は本人の問題ではなく社会の責任とするのが今のトレンド
実は、先述の国連障害者権利条約にも盛り込まれているとおり、障害というのは、本人の身体の問題ではなく、社会的障壁によるものであり、その社会が作った壁をなくすことが必要で、それを社会の責任とする視点が今のトレンドになっています。
障害者差別解消法も同様で、障害者を排除しようとする社会に問題があり、障害者を受け入れる社会にしようとすることを目指しています。
だから、この障害のトレンドでは公助を大事にしているにも関わらず、制度に公助を盛り込んでしまうと制度自体が成り立たなくなってしまう。この地域共生社会の構想は、とても良いものではあるけれども、障害者の問題が置き去りにされているところに一種の限界が見えていると思います。
だからこそ、お年寄りや子どもたちが安心して暮らせる地域社会はもちろん大切だけれども、あわせて障害を持つ人も安心して暮らせる社会こそが本当の地域共生社会だという呼びかけを、私たち障害福祉に関わる人間がしていかなければいけないと思います。
生産性や効率で障害者の自立を考えることへの懸念
それから、この地域共生社会の出典元になる「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現」という報告書が25年9月に現実の施策として実施されています。
ここでは、「生産性や効果に着目した事業経営」をするようにと書かれています。前述の報酬の項目でも出てきたこの生産性や効果について注意すべきは、何を持ってそれを計るかということ。
職業を持って自活することを目標にすること自体は良いけれど、それが障害者の自立とすると、自立できる人できない人というように障害者をふたつに色分けしてしまうことになる。そこに私は懸念を持っています。
就労できない人にとってもその人なりの自立がある。だから生産性や効果は何を基準に考えるべきか、そこをきちっと見る必要があります。
人手不足解消のための専門職と準専門職の棲み分けの議論
また、専門職と準専門職の棲み分けについても、人手不足を原因に専門職と非専門職の仕事を分けてしまおうという議論があります。
障害はまだ対象外ですが、こうした動きが進んでいる中で、何が障害者にとって良いのかを今後注意深く見守っていく必要があります。
改定の基本にあるのは今あるものの相互利用
現実的には、新しいニーズに対して新しいものは作れないので、今あるものを相互利用しようという考え方で課題を実現していくわけです。
グループホームは重度の方を対象に作り、そこを出ていく方に対して生活支援を作ったわけです。
ケアマネージャーの報酬に導入された成績主義
さきほど触れた経営実態調査については、成績主義も実際に入っています。
わかりやすいのはケアマネージャーの導入で、いままでケアマネージャーは件数をやっていればそれに対して報酬を得ていました。今回、このケアマネージャーの報酬の本体を下げて、ケア会議を開いている、記録をつけるなど質に関わる部分を加算することで本体が上がる方式にしました。
こういうかたちで成績主義が入り、今回、ケアマネージャーは35件を持つことを想定し、採算点は30件にした。だから、これ以上やっても額が下がっていくという仕組みです。
食事提供体制加算や送迎加算など、今後の報酬改正に向けての課題
今回の報酬改正に積み残した、今後3年間で考えていきましょうという課題は
- 食事提供体制加算をどうするかが次の焦点に。
- 就労継続支援A型と放課後等デイサービスにおける送迎加算についてどうするか。今回、放課後等デイサービスは特別な場合を除き、原則として送迎加算がナシになりました。
- 身体拘束についてどうするか、実はほとんど議論がないのに3つめの課題になっているのが問題。
その他、
4.居宅介護の報酬等の在り方
5.入院中の病院等における重度訪問介護の対象者の要件をどうするか
6.重度障害者等の包括支援対象者の要件をどうするか
7.就労移行支援利用後の一般就労の雇用形態や勤務形態の実態把握と今後の対応をどうするか
8.就労継続支援A型における最低賃金特例適用者の実態把握と今後の対応をどうするか
9.就労移行支援における支援内容の実態把握と今後の対応をどうするか
10.共同生活援助における個人単位で居宅介護を利用する場合の経過措置の取り扱いをどうするか
11.計画相談支援・障害児相談支援のモニタリング実施の標準期間をどうするか
12.医療的ケア児の判定基準をどう確立するか
13.サービスの質を踏まえて、報酬単位をどう設定するか
14.客観性・透明性の高い情報に基づく報酬改定をどう進めるか
これからの方向としては、今あるものをどう効果的・経営的にしていくかということ、そして重度者をどうしていくかが議論の中心になっていくと思います。
最終的に法人には今回、手が就きませんでしたが、今後は法人がやる生活介護や入所支援の評価をどうするかが議論に入ってくると思います。
障害者の生活を支える障害福祉であるために
障害福祉が担うのは障害者の生活で、そのためには
- 安心して暮らせるかどうか
- そこをちゃんと作っていけるのか
- 地域住民から見て障害を持った人も同じ隣人なんだというものを作っていけるのか
を考えていかないといけません。
今の時代は、確かに資本主義社会でこの社会ではできるだけ早く、できるだけ大量、できるだけ正確に仕事をした人が優秀な人とされますが、それが全てなのか。そういう効率や効果だけで、我々は物事を見てしまってよいのかという、そこを僕たちは考えるわけです。
平野方紹氏からのメッセージ|
障害者本位、その意味するところ
今日の障害者福祉のトレンドは「利用者本位」であることは間違いありません。であるなら、どこでどんな生活をするかは利用者が決めるべきであり、またその生活の評価は利用者に委ねるべきです。
大上段から(理念先行で)「障害者は地域で暮らすべきだ!」と断定するのではなく、障害者が本当にどこで、どんな生活を送りたいのか、どこでの生活を評価しているかという現実から議論することが本来の利用者本位です。
そう考えるなら、もちろん利用者のことを考えない経営至上主義は論外ですが、利用者がここでの生活が良い!と自信を持って語れるグループホーム(施設)であることが目指すべき方向ではないでしょうか。
障害者が求めているのは、自分が自分らしく生きてゆける場が確保され、ひとりの人間として尊重され、納得した人生をおくれることではないでしょうか。
2011年7月の障害者基本改正のキーワードのひとつに「多様性の尊重」があります。障害を「特別なもの」として排除するのではなく、社会や人々の多様性を認めて尊重しようということです。
そうであれば、障害者本人に焦点を当てて、もっと柔軟で現実的な考えをすることが必要でしょう。
社会の理不尽さで障害者が泣くことがないように、これが障害者福祉の先人たちの願いであり、突き動かしたエネルギーだったと思います。
この障害者福祉の原点を踏まえ、これからの障害者福祉を担い、拓く存在となることが期待されます。
平野 方紹 氏
当日配布資料から引用
平野先生・横須賀市施策検討連絡会の皆さまには、お忙しい中、掲載内容について確認・指導いただき、本当にありがとうございました。
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2018.02.22
平成29年度障害者施策検討連絡会学習会
@ヴェルクよこすか6階
取材|五本木愛・takeshima satoko
写真|takeshima satoko
写真加工|ゆっぴー
テープ起こし・文・構成|takeshima satoko
sukasuka-ippo
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