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【取材File&ライフハック】水の中で歩けた!小さなきっかけが大きな夢へ――下肢麻痺の男の子・リキくん14歳の今@水泳スイミー

水泳といえば、私たちが子どもの頃から、学校の授業や習い事としても人気のあるスポーツ。

水が大好き!
体力がつく!
泳ぎを覚えたい!

お子さんの特性や年齢によって、水の中で目指すことはそれぞれですが、今回は
「水の中だからこそできる!」
そんな可能性を教えてくれた男の子、リキくんをご紹介したいと思います。

前半部分は、リキくんのお母さんから聞いたエピソードを手記の形式にまとめました。後半部分では水泳スイミー・代表の高見さんと長年指導されている井上さんとのお話をご紹介。どうぞ最後までご覧ください!

緊張を解くために始めた水泳。「水の中なら自由になれる」というリキくん自身の気付きが意欲に!今では大会という目標も

リキくんってどんな男の子?

  • 現在14歳、中学3年生。(2017.05 取材時)
  • 軽度の脳性麻痺で、下肢麻痺があります。
    小さい頃からリハビリを続け、小学3年生頃には少しずつ独歩ができるようになりましたが、長く歩くのはまだ難しいです。
  • 移動は車いすがメインで、学校の校内では歩行器を利用しています。
  • 上肢は、多少の苦手はあるものの、普通に生活するには困らない程度です。

『水泳スイミー』を知ったきっかけは、当時通っていた『マザーズ』。小学1年生の時に補助会員で入ったのが始まり

当時、通っていた横須賀市療育相談センターの前身である『マザーズ』で知り合ったママたちの話で、障害児を対象としたプール教室『水泳スイミー』というのがあることを知ったのがきっかけです。

息子が小学校1年生の夏、補助会員で入らないかと声をかけてもらい、始めてみることにしました。

陸の上では緊張が強い息子。水の中でリラックスして欲しいという思いがありました

脳性麻痺の子には色々ありますが、息子の場合は、陸の上で何かやるとなるとどうしても緊張が高くなってしまいます。
水は怖くない子だったので、水の中でなら力を抜いて体を動かせるのではないかという期待がありました。

本人の意思は聞かずに『水泳スイミー』に入れてしまったので、はじめは
「なんでオレはこんな所にいるんだろう?」
と思っていたかもしれません。

少し人見知りっぽいところがあるので、私と離れることに不安はあったでしょうが、「行きたくない!」と言うこともなく、通っていました。

2年ほど補助会員として参加させてもらい、上級生が卒業するタイミングで正会員になりました。

水の中で歩けた!その時の嬉しそうな顔が忘れられません

やっていくうちに、水の中がいかに楽かということを、リキ本人も実感していたと思います。

お友だちと一緒にプールに遊びに行った時のこと。浅いところでアームヘルパーを着けてプールに入っているリキを見ていたら、1人でタッタッタッて歩くじゃないですか!もうびっくりして、思わず動画に収めました!
周りのお友だちも、「リキ、歩いたじゃん!」と言って喜んでくれました。

何歩か進んではツルンと滑るんですが、溺れる深さではないので自分で立ち上がって、何回も何回も果敢に歩いてました。
その時のすごく嬉しそうな顔が忘れられません。

「水の中だったら俺、自分でできる」意識が変わった瞬間

水の中でなら、支えがなくても自分1人の力で立っていられる!歩ける!という感覚がわかると、本人も楽しくなって、そこから水泳に目覚めたんだと思います。

それまでは、泳ぐというよりはパシャパシャ遊んで、「水の中って楽しいんだよ」と教えてもらいながら、体をリラックスさせるのが目的でしたが、
「水の中なら俺自分でできる!」
という自信がついて、本人が泳ぎたくなったのかな。

先生も、リキだったらということで、泳法について教えてくれるようになりました。先生が「こういう風にやってみない?」と言ったことに対して、リキも積極的に取り組むようになりました。

まずは浮くことから!泳ぎのスタイルは自由、やりやすい方法でOK

足を使ってしまうと緊張が高くなって浮けなくなるということで、最初は足は使わず、上向きでプカプカするところから始めました。

本当に力が抜けて浮けるようになったら、今度は手を動かしてみようかって…。
でも、やっぱり肩が硬くて、いわゆる背泳ぎの両手を大きく動かすところが難しくて、バランスを崩してどこかに緊張が入ってしまったり…。
だから独自のやり方で、でもそれで進めるんだってことをまず覚えました。

先生は、「リキがやりやすい方法でいいよ」と言ってくれるので、息継ぎの練習でも、ビート板を使って「グブグブグブパー」というところからやってみたり、「これが無理なら、じゃあこれならどう?」って、いろんな方法を提案してくれていました。

そうした試行錯誤の結果、平泳ぎの動きが一番やりやすいということで、今は背泳ぎと平泳ぎをメインに練習しています。


▲平泳ぎは、最初は浮き沈みするだけになっていたのが、だんだん手だけできれいに進めるようになり、徐々にその距離が伸びてきました。息継ぎのリズムも、少しずつ身についてきました。

学校の授業でも練習の成果を発揮!

去年、学校の水泳授業で、足をつかずにできるところまで泳ぐという課題があり、折り返しながら、ゆっくりだけど100m泳げました!「ここまでできるようになったんだ!」と成長を感じました。

障害者の水泳の大会がある!目標ができたことで俄然やる気が出たみたい

毎年、相模原市で行われる神奈川県の障害者スポーツ大会について知ったのは、リキが小学6年生の時でした。市の障害福祉課から大会競技の資料をもらうんですが、出場できるのは4月1日時点で満13歳という基準があるので、「中学2年生になったら出られるね!」と話をしていました。

大会に出られる方は、皆さん障害をお持ちなので、決まった泳ぎ方というものはなくて、本人がやりやすい方法で泳げていればクリアなのだそうです。だから大会までの2年間は、とにかく25メートルをちゃんと泳ぎ切れるように練習しました。

『水泳スイミー』で使っているプールは8メートルしかないのですが、その中でも先生がタイムを計ってくれました。私もガラス越しに見ながらスマホのタイマーで計ってみたりしました。

別にタイムなんて関係ないんですが、本人のモチベーションを上げるという意味で、記録とかそういうのも意識しながらやっていました。リキも目標ができたことで、俄然変わりました!

いよいよ目標にしていた大会へ。会場は1年前からチェック

会場は相模原市にある『さがみはらグリーンプール』。

出場するちょうど1年前、大会を見学しに行って、場所や環境などを本人と一緒に確認しておいたこともあり、当日は心構えができていました。

競技は、50メートルプールを2面に区切って、1面は知的障害のグループ、もう1面は身体障害のグループというふうに分けて競技が行われます。

流れとしては

  • 出番が近づいたら親が付き添いプールサイドへ(更衣室を通ってプールサイドへ行くので、同性の介助が必要。)
  • 車椅子から降り、入水するまでは会場の専門スタッフが介助
  • スタートの仕方は事前に本人と練習済み。「よーいどん」から泳ぐまでは1人の力で
  • 競技が終わるとスタッフの方に水から上げていただき、車椅子に乗り換えて親と一緒に戻る

という感じ。

多少緊張はしていましたが、泳ぎそのものはいつもの調子でできたので、本人は楽しかったみたいです。

細かく分かれた区分ごとに表彰。もらった金メダルは頑張ったご褒美

泳ぐときは、いろんな障害種の方が混ざっているんですが、表彰されるのは障害の区分ごと。

昨年は、3-4人と一緒に泳ぎましたが、終わって貼り出された結果を見に行ったら、「あれ、1人??」

なので金メダルをいただいて参りました!(笑)
競争ではないけれど、一応、自分が頑張ったご褒美なので、嬉しかったと思います。

今年はライバルも!?

障害種や程度によって、障害福祉課で受付をしながら振り分けて出場区分を決めていくという形なので、その年によって本当に何人、ライバルがいるかわかりません。

今年は一緒に申し込みに行った子が、同じ区分になっていたので、ちょっと張り合いがあるんじゃないかなと思います。練習もよっぽどのことがないと休まない!

小さい頃から野球が好き!できるスポーツ・好きなスポーツ、どっちも楽しんでます!

リキは小さい時から野球が好きで、自分で歩けるようになったら「野球をやる!」と言って、いつかできると信じて疑いませんでした。

少し独歩ができるようになったあたりから「いけるんじゃないか!」って本人は思うんですよね。でもやっぱり、チームに入ることは難しくて、「頑張ろうね」としか言えなくて。そんな時に水泳と出会って、タイミングよくシフトできたのでそれは良かったと思います。

今でも野球好きは変わらないので、自分ができるスポーツはこれ、好きなスポーツはこれ、というふうに、うまい具合に自分の中でバランスがとれるようになったんじゃないかな。

観戦だって行きますよ!わりと熱くなっちゃうから、声を出しすぎて振り向かれたりとか、隣の人と意気投合して盛り上がっちゃったりすることもありました。

目標を持って頑張れることがあるなら、いくらでも応援したい

水泳のように夢中になれるものに出会えたことは、本当にありがたいです。

自分で見つけようと思ってもなかなかできないし、これはだめ、あれもだめ…ということも多いです。

だけど、水泳に関しては、水の中にチャポンと入れてもらえれば自分で動けるし、足がつかなくても浮くことができるから溺れる心配もない。そういう意味では、みんなと同じことができるという自信があります。

実力として見込みがあるとか、それこそパラリンピックとか、可能性があるかないかは本当にわからないけれど、本人のやりたい気持ちと、伸ばせるものがあるなら、全力で応援したいと思います。

リキくん本人からもコメントをいただきました!

僕が初めてスイミーに行ったのは小学校1年生です。はじめはあまり好きではなかったけど、水の中で浮けたり、1人で立てるようになったら楽しくなってきました。

先生に、「障害児も出られる大会があるよ」と教えてもらい、それからその大会を目標に練習しました。足は動かさないで手で水をかいて背泳ぎができるようになり、次に平泳ぎも教えてもらいました。

中2になり、大会に出ました。周りの人たちはとても速かったので、もっとがんばらないとダメだなと思いました。
ぼくは野球も好きなので、今は水泳と、障害者野球もやりたいなと思っています。

30年続く『水泳スイミー』。その始まりと指導者の熱い思い

立ち上げから関わっている水泳スイミー代表・高見さんと、30年ずっと指導者をされているという井上さんに『水泳スイミー』のお話を伺いました。

立ち上げの経緯は…

高見さん  水泳スイミーの立ち上げは平成元年(1989年)。もう30年になります。保育園の、今でいうママ友同士で立ち上げました。

最初は、指導者として知り合いの学校の先生に入ってもらっていましたが、その先生がクラスを持つことになった関係でできなくなって、立ち上げから1~2年ほどで現在の井上さんにお願いすることになりました。彼女が水泳の指導をしていたのを知っていたので、声をかけたんです。

井上さん  私たちも元ママ友。もう30年か。そうだよね、当時は20代だったんだもん!

水の特性をうまく利用しながら補助すること。それが大事!

井上さん  補助というのはすごく大事だと思います。つまり、こちらの働きかけ。

たとえばズブッと水中に落ちちゃった子を「バッ!」と引き上げると怖い印象が残ってしまうので、そこは焦らない!「絶対に引き上げられる」という自信があります。絶対に事故には繋げないようにしなければいけないけど、水の中で常に子どもたちの身体の一部を強く持って補助をすると、水の特性を利用できないんですよね。

だから、ある程度危険がないことを前提として、任せてほしい!一瞬沈んだとしても、絶対助けるから!!


▲1人ひとりに声掛けをしながら指導する高見さんと井上さん


▲先生も生徒さんも、とても楽しそうに活動されているのが印象的でした

活動時間は土曜日の午後ですが、お時間が合えば大歓迎!!

高見さん  横須賀市で出してる冊子『療育すこやかガイドブック』に『水泳スイミー』の情報も載せてもらっていて、1年に1~2回はそれを見て電話をもらうことがありますが、やぱり土曜日の午後という時間帯が、ちょっと難しいっていう方が多いですね。

以前はマザーズつながりで一度に4人くらいきて、定員いっぱいだったこともあるんですが、今は空きがあります。 

私たちのような小さいグループを集めて、輪が広がったら楽しい

井上さん  たぶん、私たちのように活動している小さいグループはいっぱいあると思うんだよね。
だから一堂に会す場所というか、ちょっと大きいプールを借りて、いろんなところから集まって、運動会とかやれたらいいねって話をしているんです。

『水泳スイミー』活動情報

活動場所/ 『くりはま花の国プール』障害児温水訓練室
活動時間/ 毎週土曜日 14:30-16:00(2部制で、前半と後半にグループを分けます)
対象/ 知的障害・身体障害をお持ちのお子さん(年齢は要確認)

※正会員と補助会員がありますが、補助会員は身体障害児のみを対象とさせていただいています。介助の関係で入れる人数に限りがあるため、補助会員の方は正会員の方の欠席状況により参加していただけます。

・・・

2017.05
聞き取り取材/ 五本木愛・misa
写真加工/ ゆっぴー
テープ起こし/ うさぎのめろん・ゆっぴー
文・構成/ Kaneko Yuka
校正/ takeshima satoko

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『自分たちが足りないと思うこと、欲しいと思うものを自分たちで作り上げていく』を現実に!夢を1つずつ叶えるために!
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