障害児を育ててまだ間もない私たち幼少の子を持つ親がこういう場に来ると、まずはその議論の背景の厚みや専門用語に目がくらみます。でも、少しずつ、本当に少しずつではありますが、継続して話を耳にすることで、少なくとも「何がわからないのか」くらいはわかるようになってきました。
今回参加したのは、第22回福祉のまちづくりを進める市民集会で、平成29年度の設置を目指してまずその在り方や仕組みについて横須賀市と障害とくらしの支援協議会を中心に議論が進められてきた『基幹相談支援センター』についてのシンポジウム。2016.7.23(土)にヴェルクよこすかで開催、参加者は主催者発表で57名とのこと。
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わからないところで立ち止まりながら、初心者ならではの目線で知り得た情報を摘み取り、こうした問題について長年議論に参加してこられた先輩・森田さんからいただいた感想も掲載しつつ、基幹相談支援センターについてダイジェストにまとめてみました!どうぞご覧ください。
より詳しい内容はこちら(外部リンク)>>障害とくらしの支援協議会
まずは「なぜ基幹相談支援センターが必要なのか?」をざっくりと![司会/岸川学さんのお話をもとに…]
そもそもなぜ、基幹相談支援センターが必要になったのか。
16年間の大きな変化を分かりやすくまとめ、「サービスが自分で選べるようになったから!」というお話を冒頭でされたのは司会の岸川学さん[神奈川県立保健福祉大学社会福祉学科助教]。
岸川さんのそのわかりやすい説明をもとに、この16年の変化をざっくりとご紹介します。
ここに注目!2000年、戦後最大の改革、『社会福祉法』が成立
2000(H12)年5月の社会福祉法の成立を機に、介護サービスを含めた多くの障害者福祉制度が改正されました。
なんとこれ、『戦後最大の改正』と言われているんだそうです!これにより、以下の変化がどんどん進みます。
2003年、『措置から契約へ』/支援費制度により選べるようになったサービス
この社会福祉法の改正を受けて、2003(H15)年4月1日から「支援費制度」が施行され、サービスの在り方が
措置制度…それまでの行政がサービスを指示、決定を行う
↓↓↓
利用契約型…利用者本人がサービスを選択し個別に事業所と契約を行う利用者本位の制度
に大きく変わりました。
今、当たり前のようにソーシャルワーカーや相談機関でサービス等利用計画を作成し、自分で必要なデイサービスなどを探して利用できるようになっていますが、これも実は最近のことなんですね。
なお、この「支援費制度」自体は下記(2010年度)の障害者自立支援法の改正により廃止されていますが「契約型」という大きな改革をもたらしました。
2010年、『障害者自立支援法』により地域移行と地域定着の流れ
2010(H22)年12月…「障害者自立支援法」が一部改正
2012(H24)年4月1日…地域移行支援及び地域定着支援を個別給付化
2014(H26)年4月1日…「障害者総合支援法」により障害者の地域移行をさらに推進
つまり、これまでは入所施設を主な生活の場としていた障害者を、例えば移動支援を使って地域のグループホームを利用できるようにするなど、地域での生活を支援する動きが出てきました。
参考文献>>厚生労働省『障害のある人に対する相談支援について』
参考文献>>内閣府『平成26年度版 障害者白書(第6章 日々の暮らしの基盤づくり)』
障害の種別を越えてサービス・利用者の拡充をはかる動きも
この自立支援法により、障害の種別(身体障害、知的障害、精神障害)に関わらず、障害者の自立支援を目的とした共通の福祉サービスを障害福祉サービスを地域で総合的に考えることができるようになりました。
障害のある人の権利を尊重する!(成年後見・虐待防止・差別解消)
2016(H28)年4月1日には、障害者差別解消法も施行されました。
関連記事>>【取材File】差別ってなんだろう?合理的配慮ってなんだろう?障害者権利条約と障害者差別解消法
この他、
・親亡き後の財産管理、医療看護等の契約に係る成年後見について
・2012(H24)年10月に施行された「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」
など、さまざまな改革が進められましたが、この一連の流れがズバリ『社会福祉基礎構造改革』なのだそうです!
「さぁ選んで!」でも、本人で選べる?そこで必要になるのが相談支援
そして、これらの様々な権利やサービス、事業所などを本人主体で選べるようになりましたが、「さあどうぞ!」と言われて自分で選べるでしょうか!?と岸川さん。
それを助けるのが相談員であり、主人公はあくまでも当事者本人。相談支援が相談者本人に支払われるのも大きな特徴です。
そして、身体・知的・精神に加え、虐待や成年後見など、専門性の高い相談員・相談窓口が必要ということで、地域に根差した総合相談窓口として、『基幹相談支援センター』の設置が今全国で進められています。そして、もちろんこの横須賀でも!
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横浜市西区の基幹相談支援センターに学ぶ[発言者/ねくさす所長・渡邊幹夫さん]
ということで始まったシンポジウム。トップバッターは横浜市西区で基幹相談支援センターの設置に向けて、自立支援協議会などを取りまとめ、現在も同区の基幹相談支援センター「地域活動ホーム ガッツ・びーと西」で各種の課題に取り組む渡邉さんからお話がありました。
渡邉幹夫さん
社会福祉法人横浜共生会 横浜障がい相談システム ねくさす所長
詳しくはこちら(外部リンク)>>『生活 創造 空間 にし』http://www.souzoukuukannishi.org
関係機関で連携!キーワードは『仲間づくり』
横浜市の相談支援センターのイメージは、ズバリ「3障害一体の相談支援」。
そこで必要になるのが、以下の機関の両輪の関係。
【新規】基幹相談支援センター(旧法人型地域委託相談)
【継続】区役所(区福祉保健センター)…ワーカーや専門職など
【継続】精神障害者生活支援センター…精神障害に特化した相談支援として連携・協力
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基幹相談支援センターとしての役割を担うにあたり、「ガッツ・びーと西」でもこれまで相談を受けていた知的・身体の連携に加え、今度は新しく精神の相談にも応じられるように、関係機関がより『仲良しになる』が必要があったとのこと。
しかし、西区ではこの基幹相談支援センターの計画ができる前から、関係機関の名簿を作り、各種会議や研修会で顔を見ながら連携してきたた経緯があるので、それをベースにさらに連携を強化するのは比較的スムーズにできたということです。そして、より強固な関係機関の連携を築くために、仲良しづくりはまだまだ継続中なんだそうです。
協議会をどれだけ面白くするかが大切。形骸化を避ける秘訣
また西区では「基幹相談支援センター」の設置に向けての話し合いを、自立支援協議会が行ってきたそうですが、この協議会、形骸化したら面白くないということで、誰にでもわかるように熱意のある参加メンバーを集めたり、毎年、各部会の要不要を見直すなど、絶えず協議会の形を作り直しながら進めたとのこと。
そして、他の区と切磋琢磨し、より良い基幹相談支援センターの在り方を目指しているそうです。
さらに、障害別、年齢別の部会を持たない理由について、「分けるとあまりいいことがない。かつて福祉法人青い鳥(横須賀市療育相談センター・ひまわり園の委託先)に勤務していたころから、療育相談センターと成人の問題は一緒に考えないと行き詰まると考えていた。障害児を育てる保護者が成人の障害者をイメージできないのは問題」という渡邉さんのお話が印象的でした。
良い基幹相談支援センターを設置するために、協議会が元気であることが大事!
そして、それぞれが自分の分野から別分野へ、地域へ、一歩踏み出しあう関係が大切だと話を締めくくった渡邉さん。
たくさんのヒントと横須賀市へのエール、ありがとうございました!
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今、横須賀市で検討している基幹相談支援センター[発言者/横須賀市障害福祉課 八橋貴樹さん]
次の発言は、現在、平成29年度の設置を目指して検討が進められている基幹相談支援センターについて。
発言者の八橋さんは横須賀市障害福祉課課長補佐で、これまでひまわり園にも何度か出前トークに来て、保護者向けにわかりやすく現状の検討案についてお話をしてくださいました。
関連記事にまとめてありますので、どうぞリンクでご確認ください!
関連記事>>【取材File】教えて!基幹相談支援センター計画/横須賀(2016.02現在の検討案)
オール横須賀で基幹相談支援センターを作ろう!新たな法人作りを提案[発言者/社会福祉法人みなと舎理事長・飯野雄彦さん]
「今、基幹支援相談センターを作るのに、いったいどれだけ手を挙げるところがあるのかというのが疑問」と話し始めた飯野さん。
構造改革も、国の赤字財政・借金財政からの脱却作戦であり、それを目的として示されたのが以下の3つの構造改革
- 財政構造改革(1997年~)…税金等
- 社会保障構造改革(1998年~)…年金医療等公的保険
- 社会福祉基礎構造改革(2000年~)…介護保険・障害者自立支援法等
これまでの「措置から支援費(契約)制度へ」、そして「支援費制度から障害者自立支援法・総合支援法」という流れは、これに照らすと社会福祉事業から社会福祉産業へ(行政の仕事から個人の負担に)という変革であったというご指摘です。
求められる基幹相談支援体制と法人作りが必要
・中立性と独立性
・ワンストップ体制…そこですべての相談が完結する
・地域の関係機関との緊密な連携
・相談支援体制やサービス調整等に対するネットワーク
・相談支援体制の質・研修
そのために、市内各法人や団体が一体となって運営に参画できる新たな組織が必要で、その実現には、とにもかくにも時間がない。まずは、横須賀市が基幹相談支援センターに対する意向や予算を固めてもらわないことには動けないと主張する飯野さん。
この法人を作るにあたり、会員はオール横須賀法人・団体であるべきと強調していました。
先輩方から感想いただきました!
[感想]主催・福祉のまちづくりを進める市民集会/教育分科会では司会を務める森田さん
障害者をめぐる状況は、国の社会保障費の財源問題もあるし、個人の生き方のような差別解消法に現れる人権のことを踏まえなければならないわけで、今までのように制度や仕組み自体を「国や自治体任せにしても、まあ少しづつでも良くなるでしょう」という考えから、変わらなければならない時に来た。
基幹相談支援センターは八橋氏の話のように、地域市民の基幹となる仕掛けが組み込まれていると思う。現行制度の問題点も市は十分に承知されていた。
したがって、このセンターがきっかけになり、横須賀市の障害者福祉が変われるかもしれない。
渡邊さんがお話くださった横浜市西区の取り組みは、区民の幅広い方が基幹センターを軸に「福祉のまちづくり」を実践しているようだ。それも、皆さんが楽しんで参加されている様なのが良い。仲間意識があるのでしょう。
だから、私が関わっている活動も、(頭の隅に基幹センターも見据えながら)しっかり宣伝して、市役所をはじめ、地域の方に参加を呼びかけ、とにかく関係性を持ってもらうことを目指し、そして関係ができたら仲間になったと勝手に思って、また呼びかけや、お願いもして、そして自分も楽しくやる!
ありがとうございます、元気をもらえました。
sukasuka-ippo代表・五本木愛の視点
西区で実際に取り組まれている基幹相談支援センターについてのお話はとても具体的かつ地域の在り方、地域との連携がとても強くそれが運営にあたり重要なのだと思いました。
当然、基幹相談支援センターがあれば相談者はまずそこで繋がる。それを自分の立場に置き換えて考えてみるとより具体的にイメージでき、そこで相談者とセンターの温度差があっては元も子もないわけで。人材育成も踏まえた自立支援協議会の活性化が重要で、それが2次相談への繋がる内容の充実にもつながっているのでしょう。
そう考えると、根本的にはどれだけ当事者の立場に寄り添って、ひとりひとりが真剣にあらゆることを良い方向に変えていきたいという想いをしっかり持っているかどうかなのかな?とも思います。
そうした、ねくさすの取り組みを渡邊さんに伺った後で現状の横須賀における基幹相談支援センターの設置計画に目を向けると、やはり構想や予算、それをどこが担うのかという枠組みはもちろん大事なことではありますが、やはりそこには「人」が創り上げていくものだということをしっかりと認識し、形だけではない基幹相談支援センターにしていって欲しいと切実に思いました。
今の現状の縦割り。これも結局は行政が事務的流れを重視しているからこのようなシステムなわけで、しっかりと当事者の立場に寄り添ってつくりあげられていけばこのようなことにはならないと思いますし、当事者の支援に関わる全ての方がしっかりと想いを持って創り始動していただきたいです。
編集後記
今回の集会の最後に主催者からあったお話、「より良い基幹相談支援センターを作るために、今日、この集会に参加された皆さんも是非関わってほしい!」が響きました。難しいから、わからないから、私に関係ない…ではなくて、これは私たちみんなの問題、まずは関心を持ってもらえるように私たちも背伸びをすることなく、知らないことをわからないことをひとつひとつ咀嚼しながら情報を発信したいと思います。
取材日/ 2016.07.23
取材/ 五本木愛・pototon
編集/ takeshima satoko
情報監修/ 福祉のまちづくりを進める市民集会
sukasuka-ippo
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