京急長沢駅から徒歩1分、駅前の通りにかわいいフラッグでデコレーションされたパン屋さんが見えてきます。
今回の取材でお邪魔したのは「長沢ベーカリー」。18人の個性豊かなパン職人さんが働いていますが、実はみなさん障害をお持ちです。そう、こちらは障害区分1~6までの成人の障害者が通う生活介助事業所でもあるのです。
今回は、『まちのパン屋さん』と『介助事業所』としての長沢ベーカリーを2部構成でレポートにまとめてみたいと思います!
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【第1部】まちのパン屋さんとしての長沢ベーカリー/おいしいパンが勢ぞろい!
とにかく目を引くのはかわいらしいデコレーション。「体に優しく、人に優しく、地球にも優しく」をモットーに、随所に揺るがないプロ意識と工夫が込められています。
▲お店の前に何かあります。近づいてみると…
▲畑で採れた新鮮野菜!
▲お客さんがいない間にデコレーションも手作り!
▲商品プレートには流木を使うなどして、お客様に見て楽しんでいただけるよう工夫しています。
お店のイートインスペースでは、自家焙煎のコーヒーもご一緒に!
▲フェアトレードのオーガニックコーヒーは1杯150円
▲豆は自家焙煎!
それでは人気商品を一気にご紹介!
▲長沢ベーカリーのパンは、幼稚園児や小学生が100円もってお買いものできるように価格設定は80円~210円くらいに設定しているのだそうです。
一番人気は、持ってビックリ!ずっしり『食パン1斤』210円
「とにかく持ってみてください!店舗ではお好きな枚数にカットします」と笑うのは、パン屋になるのが夢で都内のパン屋に就職、その後、ホームヘルパー2級の資格をとって福祉の世界へ飛び込み、縁あって長沢ベーカリーの立ち上げからリーダーとして参加し、店舗のコンセプトからパン作り、そして支援まで熱い情熱を注ぐ新倉さん。
手摘みの天然よもぎの香りよし!『よもぎあんぱん』
香りの良い天然よもぎと北海道産のつぶあんのコラボ!
新発売!『ネパールからの贈り物チキンカレーパン』/他
長沢ベーカリーのカレーパンは、自分たちの畑で収穫した具材を使ったカレーが魅力。ひとくち食べてお肉の量に驚きます!
新発売の『ネパールからの贈り物チキンカレーパン』は大地震のあったネパールの復興支援の一環で定期的に購入している本場のスパイスを使用。
その他、『焼カレーパン』などもおススメです。
その他、各種ピザも人気!季節限定はお見逃しなく!
焼きあがったばかりのピザ!これを1/6にカットして販売。
春キャベツを使った『お好み焼きピザ』など季節限定の商品は見逃せません!
▲お子さまにも人気の『ハイジの白パン』
▲こちらも人気の『くるみぱん』
旬の味をギュギュっと凝縮!手づくりの各種ジャムもおススメ!
・原田さんが大切に育てたみかんを使って砂糖とレモン汁だけで作った『原田さん家の蜜柑(みかん)ジャム』。
・山形県から送ってもらっている「葉とらず林檎」を使った『ごろごろ林檎ジャム』
・学生と一緒に収穫した追浜高校の杏をつかった『杏ジャム』
その他、試行錯誤の末にできあがった『国産レモンのジャム』や『ルバーブのジャム』などなど。
ラッピングに使われているのは、パン作りに使う強力粉が入っていた袋なんですって。
毎週火曜10:00~17:00は横須賀中央駅前のYデッキで販売!
▲目印は『長沢ベーカリー』の文字が躍る三角のフラッグ!
▲人気の食パン。Yデッキではノーカット、6枚切り、8枚切りの3種を販売。
▲そして子どもに人気のパンダクッキー(左端)は1袋に3つ入って120円です。
1便10時から13時。2便が12時から17時までと通しの方を含め常時3人くらいで販売を行っています。
【第2部】生活介助事業所としての長沢ベーカリー/みんなで夢に向かって前進!
9時半、おそろいのコスチュームに身を包んでまずは朝の集まり。
この日は13名の職人さんとスタッフ3名が集まり、まずは出社カードに各自記入。お茶を飲んで、トイレに行って、作業開始!
福祉の現場もかっこよく!コスチュームや内装にもこだわり
1階の作業場は黒い床に白い作業台。内装はもちろんコスチュームも妥協せず理想のパン屋のイメージを盛り込んだと話すのは4年前の長沢ベーカリー立ち上げから関わっているリーダーの新倉さん。
コスチュームも、白地にえんじ色のラインが入った長袖Tシャツに黒のエプロンとキャップというシンプルで機能的ながらスタイリッシュな作業着を採用。
目指すのは『福祉のパン屋さん』じゃなくてやっぱり『まちのパン屋さん』。これまで福祉の現場ではあまり重視されてこなかったこのあたりのこだわりを理解してもらうにはそれなりの苦労があったとのこと。
でも、その熱い思いが、コスチュームはもちろん商品のパッケージ、お店の内装やパンフレットなど、端々まで行き届いています。もちろん品質にも!
「1、2、3、4…」10カウントして捏ね終わり。立ち位置には足型
生地をこねる人、ジャムを載せる人、コロネの形を作る人…。みんながそれぞれの作業に集中しています。
実は、こちらの職人さんはそれぞれ自閉症やダウン症などの障害をお持ちで1~6まである区分のうち、ほとんどが3以上。中でも、5、6区分の比較的重い方が多いのだそうです。
▲促されてパンを小さく捏ねている職人さんの足元を見るとそこには足型が…。
高校卒業後にこちらに通い始めた彼は、最初は跳びはねや走り出しなどの行動が多く見られました。そこで、足型を置いて立ち位置を示し、徐々に時間を延ばし、作業に集中できるように支援してきたそうです。
その他、捏ね終わりの時間を時折スタッフの方がカウントで声掛けしてもらいながら、自分の作業に集中して取り組んでいらっしゃいました。
こだわりを作らない支援、毎日、違うパン作りを担当!?
例えば自閉症の方はこだわりが強いという特性があります。いつも同じ流れで作業をする方が良いと言われることもありますが、実は、3.11の時、災害発生時であるにも関わらず、ある障害者の方がいつもやっている仕事がひと段落するまで避難できなかったという話を聞いて、「これはまずいな」って思ったんです、と新倉さん。
以来、ひとりひとりが日常的に毎日違う仕事をできるように、こだわりを作らない支援を心がけているそうです。
立ち上がりから今年で4年、12名からのスタートでしたが、
・走り回る
・跳びはねる
・クルミを食べてしまう
・バターに歯形がついていた
などなど…、最初は本当に大変だったそうです。
時間はかかる!待つことも支援のひとつ。8ヵ月かかったあんぱん作り
「できることだけをやらせるのではなく、できるようになるのを待つ、これも私たちの支援の形です。」
区分5のある自閉症の職人さんは、あんぱんがどうしても作れなかったそうです。毎日毎日練習しましたが、どうしてもできない。
「途中でその作業に見切りをつけるのは簡単。でも、私たちはとにかくずっと見守りました。すると8ヵ月目にあんぱんが作れるようになって、次はコロネ…今は、なんでも作れます。」
その他にも1年間、パンを作らずにずっと椅子に座っていたという方もいたそうです。その彼も、今では立派なパン職人さんに!
基本的に待つのは苦手、手が空かないように作業工程を工夫
基本的に障害の特性上、みんな待つのは苦手。やることがなくなってしまうと問題行動のオンパレード!
なので、食パンについては、生地の仕込みから職人が行いますが、それ以外の調理パンは、スタッフが事前に生地作りまでをしておいて、待ち時間を減らす配慮をしています。
以前どこかで、「障害者をこんなに働かせてかわいそう!」と言われたことがあります。でも、やることがないと問題行動が出てしまうけど、作業に集中しているときはそれがピタリと収まる彼らを見ていると、「働かせるのがかわいそう」と考えるのは違うのかなと思います。休み時間などは、他害や跳びはねなど問題行動いっぱいの彼らでも、やることが明確だとちゃんと集中できるます。
そして、毎日よく歩き、立ち仕事をしっかりしている彼ら。昼夜逆転になりがちな方も、目覚ましがなくても起きられるようになるなど、生活リズムも整ってくるんです。
3語しかしゃべれなくてもレジに立って接客します
▲3語しかしゃべれない彼もちゃんとレジに立ちます。
▲目で見てわかるように、料金表には商品写真入りのバーコードが用意されています。
おばあちゃんが来ると自分からドアを開けてあげたり、小さいお子さんにはラムネをあげているんですが、誰にも言われないのに子どもの目線にしゃがんで渡したり…。
▲手が空いたときは袋にスタンプ押し!
福祉としてよりも、社会人としての目線を重視
私自身は、福祉という言葉で彼らをことさらに守る必要はないと思っています。
「ありがとう」と言って帰って行かれるお客様に、彼らも働く喜びを感じていますし、社会人としてという目線で支援をしているので時に厳しく指導もします。
反対に、支援する側として若い職員が入ってきたときには、人生的には彼らの方が先輩。そして彼らはパン職人であり、私たちの同僚であることを伝えるようにしています。
保護者のみなさんとの連携を大切にしつつ自立を目指す
立ち上げから保護者のみなさんには温かく見守ってもらい、連携を取ってきました。
通い始めの頃に、油に手を突っ込んでしまった方がいたんですが、保護者の方から「家では油に近づくことさえないけれど、仕事だから挑戦してるのね」と温かい解釈をいただいたこともありました。
毎日、家庭とこちらで連絡帳でこまめに状況を報告しあい、年に1回は母の部、父の部で飲み会を開催。家族揃ってのBBQもあります。
一方で、可能ならひとりで通勤できるように、もしくは移動ヘルパーを付けてもらうなど、障害のあるお子さんを知っている人を増やすように働きかけています。
生活介助事業所の枠組みの中での労働になるので、日給は150円という現状。ただ、早番については支援する職員と同様の時給を出したり、ボーナスはみんなに還元。
社員旅行も、最初は近場から様子を見て、公共機関を利用してみて、今年は2泊3日で鳥取へ行ってみようと計画中。目標は、コーヒーの買い付けを兼ねてみんなでベトナムに行くこと!
一日の流れ
09:00 出社
09:30 朝の会・出勤カードの記入・お茶タイム
09:40 作業開始!
[11:00 火曜日は2便のパンをもってYデッキ隊が出発]
12:00 昼食・昼休み
13:00 作業開始
17:00終わりの会
▲たくさんのパンを抱えて電車でYデッキを目指します!
その他、7:00出勤の早番や休日出勤、遅番などがあります。
長沢ベーカリーの基本情報
〒239-0842
横須賀市長沢1丁目34-13
TEL/ 046‐884‐8911
FAX/ 046-884-8912
生活介助事業所定員/ 20名
営業時間/ 10:00~17:00
定休日/ 土日祝
毎週火曜日10:00~17:00は横須賀中央駅前のYデッキで販売!
*その他、養護学校や中学校などへの外部販売も行っています。
*イベントなどでの販売も気軽にご相談ください!
sukasuka-ippo代表・五本木愛の視点
今回の取材でリーダーの新倉さんが強調されていたとおり、長沢ベーカリーは今までの事業所というイメージとは異なりプロとしての「パン職人」の仕事ぶりを見たように思いました。
しかし、これは本当に簡単なことではありません。
ひとりひとりに適した支援がなされ、それをご本人が受け入れ、持続して実践できるまで根気よく待ち続ける。それが結果的に仕事として成立するまでの質を確保することにつながるのだと。長い時間を積み重ねて、信頼関係を築き上げてこられたことは想像に難くありません。
手が空いてしまうことのないようにと作業の工程を考えても、みんなも成長する。ひとりひとりのできることがどんどん増えて、作業スピードも上がる中、今はとてもめまぐるしい毎日を過ごしているという新倉さん。成長し続けるということはもちろん嬉しいことですが、一方でそれに対応するために支援する側もどんどん新しいものを生み出していかなければならないという大変さがある。でもそれにひとつひとつ応えることで支援する側も成長できるんだろうなと考えさせられました。
楽しく過ごせればよいというのではなく、働くことの充実感や向上心を持たせてくれる作業所の在り方、とても勉強になりました。
みんなでベトナムに社員旅行に行きたい!社員寮を作りたい!2号店も作りたい!まだまだ夢に向かってまい進中の長沢ベーカリー。これからも若い発想で、色々な変化をもたらし続けて欲しいと思います。
sukasuka-ippoも微力ながら応援したいと思います!
reikoの感想メモ
前々から気になっていた長沢ベーカリー。
まずお店の外観が素敵でした。そして焼きたてパンが並ぶ店内もとてもセンス良かったです。
そして働いているパン職人さんたちは真面目に一生懸命取り組んでいらっしゃいました。
私はどうしても自分のダウン症の息子の将来に重ねて見てしまうのですが、ここなら働き甲斐があり、親の私も安心できるのではないかな、と思いました。
スタッフの方が障害のあるパン職人さんたちが働きやすいようにとても工夫されているのを感じました。
実際にパンを食べたらホントに美味しくて、今度、子どもたちを連れてまた買いに行きたいと思います。
ゆかねこの感想メモ
Yデッキの販売風景を見せていただきましたが、並んでいる商品はどれも美味しそうで魅力的!
だけど残念なことに、立ち止まってじっくりと眺めなければ、どんな物を置いているか、何が人気なのかがわかりにくいような気がしました。
現時点は、お客さんの中心はやはりどうしても障害者の関係者の方だったりご友人だったり…。でも、それだけでは絶対もったいない!是非、多くに人に知ってもらいたいなと思いました。
がらっぱちの感想メモ
長沢ベーカリーのおしゃれな外観にたまたま通りがかってUターンして戻ってきて買いに行ったのが去年のこと。
今日はYデッキの取材に参加しましたが、お客さんは、関係者、そのお友だち、そしてもちろん新規のお客さまが中心で、リピーターも多いそうです。
パンの種類も豊富でその他に手作りジャムやクッキー、ラスクも販売されてます。
また、新倉さんがプライベートで取り組んでいるという被災地支援の一環として、ネパールから仕入れたカレースパイス(ちゃんと箱の裏にカレーのつくり方も明記されてます)や可愛らしい個性的なろうそくなども並んでいます。
無添加のジャムとかずっしりむっちり食パンとか、もっと多くの人に知ってほしいと思いました。
・・・
取材日/ 2016.07.12
店舗取材/ 五本木愛・reiko・pototon
Yデッキ取材/ misa・ゆかねこ・がらっぱち
編集/ takeshima satoko
sukasuka-ippo
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