わたしたちがKANAC(以下カナック)を知ったのは2015年、ひまわり園の保護者役員会の代表として参加した教育分科会でのことです。
特別ゲストとして参加したカナックの発達障害の相談機関としての役割のほか、中学校で発達障害についての講演を行うなどの活動に注目し、園報でも紹介。
しかしこの度、支援体制を整備する神奈川県の計画により、そのカナックさんが事業終了、新しく『支援センター凪(なぎ)』として主に市町村・事業所等のバックアップにあたられることになったことを知り、お話を聞いてきました。
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KANAC(カナック)ってこんなところでした【2016.03 事業終了】
神奈川県では、もともと神奈川県発達障害支援センター かながわAを設置して、総合的な支援を行ってきました。
これに加え、三浦半島地区4市1町(横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市、葉山町)における発達障害支援体制の整備を図るために平成22年4月から社会福祉法人『湘南の凪』への委託により運営・設置されてきたのがこの発達障害相談・支援センターKANAC(カナック)でした。
どんな人が利用していたの?
横須賀市・逗子市・鎌倉市・三浦市・葉山町に住んでいる自閉症・アスペルガー症候群などの広汎性発達障害、注意欠陥/多動性障害・学習障害などの発達障害を有する人やその家族、それに関わる方々などが主な利用者でした。
地域別でみると、人口の一番多い横須賀の相談件数が過半数を占めていました。
特に19歳以上の大人の相談が多く寄せられていました。
やはり自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害の相談が多く、年齢別では19歳以上、つまり大人の相談が9割を占めていました。その中でも特に多いのが30代、40代の相談。
逆に幼児期の相談については、横須賀では療育相談センターなどでカバーできているためかとても少なかったです。
「仕事ができない!」と怒られる…「私って発達障害?」
ここで興味深いのは、大人の相談者については社会に出て初めて自らの障害を疑う、または自覚して、診断・相談してくるケースが多いこと。
「おまえは仕事ができない!」などと言われて悩んだり、社会生活を送る上で何らかの不具合を自覚するなど。
そうした本人からの相談を受けて、発達検査をしてみると「実は発達障害だった!」とわかるケースも非常に多いそうです。
また、カナックに相談してくる相談者の多くは既に社会で困難を感じているケースがほとんどで、手帳の取得や適切なフォローにより、就職につながるなど、悩みが改善されるケースが多いということです。
中学生に向けた講演会や当事者の集まりも魅力でした
その他、中学校などで発達障害についての講演(後述)などを行うなど発達障害への理解を広げる活動をしています。
またカナックが主催して月2回行われた当事者の集まりでは、自閉症や発達障害などを抱える大人の当事者がフリートークをしたり、コミュニケーションの練習をしたり、愚痴や不満を吐き出したりできる場所として、人気を集めていました。
どうしてカナックがなくなるの?
本来、カナックのような支援センターが担うべき大きな役割は以下の2点。
- 個別の発達障害相談
- 市町村や事業所等のバックアップ
しかし、近年、個別相談の件数が増加したことで、市町村や事業所等のバックアップの役割が十分に果たされていないことが全国的にも問題になってきました。
そのため、平成26年度から国として地域生活支援事業のメニューに「発達障害者支援地域支援マネージャー」を加え、地域の支援体制を整備する取り組みが進められてきました。
そのモデルケースである他県での成功例が報告されたことを受けて、神奈川県でも28年度から発達障害者地域支援マネージャーを配置して、市町村や事業所などへの支援を充実させる体制を整備することになりました。
そうした流れで、
- これまで個別相談を受けていた対⇔個のカナックは事業終了
- 今後は、『支援センター凪』として、対⇔行政の支援(具体的には発達障害者を支援している福祉機関や学校、行政等への機関支援)に注力することになりました。
詳しくはこちら(PDF形式・外部リンク)>>> 横須賀・三浦地区における発達障害専門相談員配置事業の終了について
カナック業務終了後、利用者はどこへ?
このように地域で当事者の直接相談を受けてきたカナックが2016年3月をもって業務終了ということになりましたが、これまでの利用者はどうなったのか伺うと、利用者に経緯を説明し、了承を得ながら各地域の支援センターや事業所へ出向き、引き継ぎを進めているとのことです。(2016年4月現在)
ちなみに対応が難しいケースというのは?
ボーダーの方の相談も多く、これにはあらゆる知識を振り絞って対応しているそうです。
40歳で手帳を取得したケースも!?
それまでなんとか社会生活を送ってきたものの、やはり発達障害等による困難に直面し、相談に来られたケースの中で、40歳になってから手帳を取得するという事例もありました。ただ、発達障害には明確な分類がないため、精神でとるのか知的でとるのか、また障害を証明するために小学校ぐらいまで遡って、事例を集めなくてはいけないなどの苦労がありました。
ただ、手帳を取得したことで、障害者枠で配慮や周囲の理解を得ながら働くことができるケースも多く、お困りの方には有効な解決策のひとつであるようです。
相談者は家族!?本人は自覚なしというケースも
その他、本人は自覚していないけど配偶者や家族が困って「旦那が発達障害なのでは!?」と相談するケースも。
ご本人に説明しても検査を受けてくれない…。こうなると直接的な解決は難しいので、周囲の人が発達障害について理解し、その特性に合わせたアドバイスをしていくなど、間接的な支援が必要になります。
周囲の人間が問題行動の背景を知ることで寛容になれたり、発達障害の人と共同生活をすることで生じるストレスを軽減できることもあるし、もちろん、残念ながらうまくいかないこともあります。こういうケースはなかなか対応が難しく、ノウハウも必要です。
横須賀・三浦地域の相談窓口、今後はどうなるの?
そして気になるのは、今後の相談窓口はどうなるのかということ。
実は、2016年6月までの期間は横須賀・三浦地域対象の相談専用電話が繋がります。
それ以降は従前から政令市を除く全県域を対象に実施している神奈川県発達障害支援センター かながわAの相談専用電話に集約されることになります。
そして、その『かながわA』の電話相談窓口に相談することで、相談内容に応じた適切なアドバイスや相談機関・支援センターへの支援につなげてもらうことができるのでご安心ください。
横須賀・三浦地区の発達障害電話相談はこちら
神奈川県発達障害支援センター かながわA
℡/ 046-581-3717
月~金(祝日・年末年始を除く)
8:30~17:15
【その他】横須賀でも開催してもらいたい!子どもに向けた講演会
カナックが逗子市の小・中学校で実際に行った発達障害についての講演会についての話は、障害児の親として、とても興味深く聞きました。
- 発達障害や自閉症とはどういう障害なのか
- どういう感覚で日々生活しているのか
- どのように物事を捉えているのか…など
発達障害についての正しい理解を若い年代に広げていくことで、いじめに発展するリスクを軽減する効果も期待できます。
この講演会について、逗子市ではカナックだけでなく教育委員会の教育研究所や社会福祉協議会も一緒になって企画。
講演会の他にも、実際に発達障害の人が感じる戸惑いや焦る気持ちなどを疑似的に体験してもらう試みを、子どもたちや支援級の先生たちの研修で行っているとのこと。
4年生ぐらいになると、講演会や疑似体験の後のグループトークや感想文でしっかりした反応があるようです。
そして学校などからのオーダーがあれば、こうした講演会は開催可能というお話でした。
横須賀でもこのような取り組みがあるのでしょうか。この辺りは今後、リサーチしていきたいと思います!
支援センター凪の基本情報
〒249-0005 神奈川県逗子市桜山7-12-4
TEL / 046-870-5280 FAX/ 046-873-5370
mail/ rin_kobayashi@shounan-nagi.or.jp
詳しくは支援センター凪のホームページで!>> http://www.shounan-nagi.or.jp
sukasuka-ippo隊長・五本木愛の視点
「カナックがなくなる」というお話を聞いたのは、2016年3月中旬、サイトオープンを前にして、以前、園報で紹介した内容をサイトでも紹介してよいかとお伺いの連絡をした時のこと。正直、かなり驚きました。
大人の発達障害について相談できる場所として…、また当事者が集い、啓蒙にも力を入れていたカナックさんの存在をひとりの障害児の親として頼もしく感じていたからです。
いささか急に感じる相談事業の終了について、残念に思う気持ちもありますが、今後はカナックさんの支援のノウハウが地域に広がっていくことに大きく期待しています。
今回の取材でも、講演会の取り組みや相談の事例について、興味深いお話がたくさん聞けました。
また改めて取材させてもらい、横須賀でも講演会などの実現を求めていきたいと思います。
取材日/ 2016.04.14 (初回取材日2015.05)
取材/ 五本木愛・misa・pototon
編集/ pototon

sukasuka-ippo

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